アルファベット コード 豪華客船から消えた夫婦 | 40代社畜のマネタイズ戦略

アルファベット コード 豪華客船から消えた夫婦

サスペンス
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まえがき

地中海を巡る夢の豪華客船、その裏に潜む“消された階”と失踪事件。 本作は、現代社会の匿名性と監視、情報操作を絡めた密室ミステリーです。

登場人物一覧

蒼井 玲奈:21歳、大学生、一人旅中の女性、好奇心旺盛

久世 誠一:45歳、投資家、表向きは冷静沈着、裏で暗躍する

マリナ&エドガー:30代、世界一周中のSNS有名カップル、秘密を持つ

相沢 真人:48歳、無職、かつての失踪事件の生存者

アリシア・ヴァレンタイン:失踪した女性、謎の監禁被害者

目次

アルファベット・コード ~豪華客船《オデッセイ号》失踪事件~

まえがき

登場人物一覧

第一章:消えた夫婦と「R」の文字

第二章:乗客リストと正体不明の名前

第三章:甲板に刻まれた「H」、その意味

第四章:投資家の部屋に隠された古い船図

第五章:世界一周カップルの裏の顔

第6章:中年男が知る“過去の事件”

第7章:船内放送の暗号メッセージ

第8章:アルファベットの全容と位置情報

第9章:監禁部屋の場所と脱出の計画

第10章:真犯人と、船に刻まれた真実

エピローグ

あとがき

第一章:消えた夫婦と「R」の文字

蒼井玲奈は、白い波間に沈む夕日を見つめながら、心の底でこうつぶやいていた。

「この船、なにかおかしい」

地中海を巡る12日間のクルーズ。世界最大級の豪華客船《オデッセイ号》。
日本人の姿は少なく、乗客の多くは欧米の富裕層。
それでも、玲奈は一人旅に憧れ、バイトで貯めた金で乗船した。


事件は、4日目の朝だった。

Aデッキ・1154号室。
朝のルームサービスを届けたスタッフが、異変に気づく。

ベッドの上にはぐしゃぐしゃのシーツ。

クローゼットにはスーツケースと着替え。

セーフティボックスは開いている。

そして、壁に赤いマジックで描かれた、謎の一文字。

「R」

部屋の主、ヨハンとアリシア夫妻は消えていた。
パスポートも、貴重品もそのまま。
海上での失踪。それだけでも異常なのに、不可解な文字まで。


玲奈は事件に興味を持ち、船内を歩き回った。

「乗客の行方不明なんて、たまにあるさ」
カジノで聞いた、投資家・久世誠一の軽い言葉。
「SNSには載せるなよ、オデッセイ号の評判が落ちる」
世界一周中のカップル、マリナとエドガーの冷たい笑顔。
「……また、あれが始まったのか」
バーの片隅で、無職の相沢真人が酒をあおりながらつぶやいた。

玲奈は確信した。

この船では、以前にも“何か”があった。


夜。玲奈がデッキを歩いていると、壁に奇妙な落書きを見つけた。

「H」

それは、薄くかすれたアルファベットの一文字だった。
偶然なのか、計画的なのか。

居なくなった夫婦、謎の「R」、デッキに刻まれた「H」。
すべては、まだ始まりに過ぎなかった。

第二章:乗客リストと正体不明の名前

翌朝、玲奈は《オデッセイ号》のインフォメーションデスクに向かった。
「Aデッキ1154号室のご夫婦の件、何かわかりましたか?」
問いかけると、クルーズスタッフは笑顔を崩さず、形式的に答えた。

「乗客の方のプライバシーですので、お答えできません」

想定通りの答えだったが、気になるのはその表情。
どこか、怯えのような影が見えた。


その夜。玲奈は、こっそりとクルーズの掲示板コーナーへ忍び込んだ。
そこには、緊急時の避難ルートとともに、乗客リストが英語で掲示されている。

「ヨハンとアリシア・ヴァレンタイン夫妻……」

探しても、その名前はどこにもなかった。
だが、代わりに奇妙なものを見つける。

名前欄:R・ヴァレンタイン

乗船理由:非公開

部屋番号:1154

「夫婦じゃなくて、“R”だけ…?」

不審に思う玲奈の背後から、声がした。

「リストは、表向きのものだ」

振り返ると、あの投資家・久世誠一が立っていた。


「この船には、表と裏がある。客も、情報も、事件も」

久世はワイングラスを揺らしながら語った。

「失踪なんて騒ぎは、昔からよくある。だが、今回は違う。
アルファベットが残されたってことは、“裏”の世界の連中が動いてる」

玲奈は思わず聞いた。

「裏の世界って……?」

久世は笑い、こう続けた。

「この船には、“アルファベットコード”がある。
それが示すのは、場所、人物、時には――監禁された誰かの居場所だ」

玲奈の背筋に冷たいものが走った。


数時間後、船内の廊下に新たな落書きが見つかった。

「L」

それは、次の居場所を示す暗号だった。

第三章:甲板に刻まれた「H」、その意味

夜の海は静かで、波の音だけが甲板に響いていた。
《オデッセイ号》のAデッキ最上部、プールサイドには誰もいない。
だが、そこに“それ”はあった。

「H」

デッキチェアの裏、誰も気づかない場所に、黒いペンで描かれた一文字。
そのアルファベットは、壁の「R」、廊下の「L」に続く“第三の符号”だった。

玲奈は震えながら、文字の周囲を探した。
すると、床に微かな赤い線が走っているのに気づく。
線はプールの排水口へと続いていた。


「助けて……」

排水口の奥から、かすれた声が聞こえた。
玲奈は慌ててプールのスタッフを呼んだが、到着したときには、声は消えていた。

警備員が言った。

「イタズラだろう。客の声が聞こえるわけがない」

だが、玲奈は確信していた。
誰かがこの船のどこかに閉じ込められている。
それが、アルファベットと繋がっているのだと。


数時間後、バーのカウンターで、無職の中年男・相沢真人が玲奈に話しかけた。

「お前、アルファベットを追ってるのか」

彼は酔っていたが、目だけは真剣だった。

「俺は見たんだよ。昔、この船で同じようなことがあった。
消えたのは、一組の夫婦。アルファベットが船内に残されてな」

玲奈は息を呑んだ。

「その人たち、どうなったんですか?」

相沢は、グラスを握りしめ、低く答えた。

「見つかったよ。
……遺体でな」


甲板に刻まれた「H」は、単なるイタズラではない。
それは、次の“警告”だった。

船は静かに、闇の中を進み続けていた。

第四章:投資家の部屋に隠された古い船図

「乗れ」

久世誠一の言葉に、玲奈は小型のエレベーターへ滑り込んだ。
投資家――久世のスイートルームは、一般客とは別格。
カードキーでロックされたエリアの先、豪華な客室が広がっていた。

「“コード”の話をするなら、君にも見せとくべきだろう」

久世は、壁の裏側に隠された小さな金庫を開けた。
そこから取り出したのは、古びた船の設計図だった。


「これは……オデッセイ号?」

玲奈が図面を広げると、現行のレイアウトとは微妙に異なる箇所があった。
特に目を引いたのは、“Fデッキ”の表記

「Fデッキは存在しないはず…」
「表向きはな。でも、元の設計段階では存在してたんだよ」

久世が指を滑らせた場所に、こう書かれていた。

“F-08:隔離エリア・アクセス制限”

「この船には、“消された場所”がある。おそらくそこが“居場所”だ」


玲奈は震えた。
消えた夫婦、アルファベットの暗号、そして存在しないはずのデッキ。
全てが一つに繋がっていく。

「でも、どうやってそこに行くんですか」

久世は、不敵に笑った。

「アルファベットを全部集めるしかない。次の文字が、鍵を開ける」

そのとき、船内放送が響いた。

“間もなく、Bデッキ・ラウンジにてイベントが開始されます”

玲奈と久世は、顔を見合わせた。

「Bデッキだな。次の文字、来るぞ」


イベント会場の入り口、誰かが残した落書きが目に入る。

「P」

アルファベット・コードの連鎖は、止まらなかった。

第五章:世界一周カップルの裏の顔

Bデッキ・ラウンジは、煌びやかなシャンデリアと生演奏が響く空間だった。
そこには、SNSで人気のカップル――マリナとエドガーの姿があった。

「ねぇ、あなたたち、“P”のこと知ってる?」

玲奈が問いかけると、マリナは笑顔のまま、グラスを傾けた。

「“P”?何それ、パーティーのP?」

「とぼけるなよ」

背後から久世誠一が現れた。
投資家としての鋭い視線が、カップルに突き刺さる。


エドガーは肩をすくめ、ポケットからスマホを取り出した。

「こいつは面白いよ。船内のアルファベット、撮影して投稿すると、再生数が爆増する」

エドガーのSNSアカウントには、船内の壁や床に刻まれた**“R” “L” “H” “P”**の写真が次々とアップされていた。

「君たち、知ってたんだな。アルファベットが単なるイタズラじゃないって」

久世の声が低くなる。

「……ごめんなさい」

ようやくマリナが目を伏せた。


彼女はポツリと打ち明けた。

「私たち、最初はネタにするつもりだった。でも気づいちゃったの。
アルファベットの出現場所、全部合わせると、特定の場所を示してるって」

玲奈の心臓が高鳴る。

「それって、もしかして……Fデッキ?」

マリナはうなずいた。

「写真、全部繋げたら、Fデッキの存在が浮かび上がる。
でも、“そこ”に行ったら、もう戻れないって噂があるの」


そのとき、ラウンジの入り口に新たな文字が浮かび上がった。

「C」

アルファベット・コードは、確実に“その場所”へと近づいている。

第6章:中年男が知る“過去の事件”

「また“C”が現れたか……」

相沢真人は、バーのカウンターでバーボンを傾けながらつぶやいた。
目の下には深いクマ、手はわずかに震えている。

玲奈と久世、マリナとエドガーが集まると、相沢はぼそりと語り始めた。


「俺は、6年前にもこの船に乗った。
そのときも同じだったんだ――アルファベットが船内に現れて、誰かが消えた」

「失踪事件ですか?」

玲奈の問いに、相沢は静かにうなずく。

「消えたのは、新婚旅行の夫婦」

場の空気が一瞬凍りつく。


相沢は、ポケットから古びた写真を取り出した。

白黒の乗客名簿のコピー

そこに並ぶ、謎のイニシャル

そして、消えたはずのFデッキの文字

「アルファベットは“消された階”へ誘導する暗号だ。
奴らはそこに監禁し、遊んでる。
この船は、上流の連中の“密室実験場”なんだ」

 


玲奈の背筋に冷たいものが走った。
消えた夫婦、Fデッキ、次々と浮かび上がるアルファベット。
そして、行方不明者は自分の意思では出られない。

「じゃあ、今も……?」

「監禁されてる。おそらく女の方だけ」

相沢は、テーブルの下に書かれた新たな文字を指差した。

「S」

コードは、確実にFデッキへと続いている。


第7章:船内放送の暗号メッセージ

翌朝、船内に流れるアナウンスが異様な響きを持っていた。

「Good morning, dear guests. Today’s weather is perfect for… S…ailing. Breakfast is ready on deck… C…afé.」

不自然に区切られる「S」と「C」の音。
玲奈は直感した。

これも、コードだ。


久世がスマホで録音を再生し、相沢が写真を拡大する。
そこには、昨日から現れた「S」「C」、そして直近で見つかった「P」「H」「R」「L」の文字が並んでいた。

「順番に並べると、S-C-P-H-R-L
「意味が分からん」

マリナとエドガーが顔を見合わせる。


玲奈はふと、投資家・久世の古い船図を思い出した。
消されたFデッキ、その構造と英単語の断片。

「これ、場所じゃないですか。SはStorage、CはCabin、PはPassage…」

相沢がうなずく。

「奴らは、アルファベットで“道順”を示してる」


そのとき、再び船内放送が響く。

「Dear passengers, for… S…afety reasons, please avoid deck… F… at this time.」

Fデッキを避けろ――つまり、そこが目的地だ。

玲奈たちは目を見合わせ、決意した。

「行こう、Fデッキへ」


深夜、隠されたハッチを抜け、船底近くへと続く階段を降りる。

そこに、最後のアルファベットが刻まれていた。

「E」

全てのコードが揃った。

“S-C-P-H-R-L-E”
それは、“Escape”――脱出を意味していた。

第8章:アルファベットの全容と位置情報

船底に続く細い階段を降りると、そこは薄暗く、湿った空気が漂っていた。
Fデッキ――表向きは存在しないはずの、消された階層。

壁には、これまでに見つかったアルファベットが並んでいた。

「S」「C」「P」「H」「R」「L」「E」

相沢真人が古い船図を広げ、久世がスマホで解析を進める。

「この順番……場所と方角を示してる。
Storage(倉庫)→ Cabin(船室)→ Passage(通路)→ Hold(貨物室)→ Restroom(トイレ)→ Ladder(はしご)→ Escape(脱出口)」

玲奈は息を呑んだ。

「つまり、この船には、誰にも知られていない“ルート”がある」

そして、そのルートの終点に、行方不明の夫婦がいる。


玲奈たちは慎重に進んだ。

最初の倉庫で、古びた救命胴衣と隠された通信機を見つける。
Cabinと刻まれた船室では、消えたアリシア夫人のスカーフが落ちていた。

「生きてる。絶対に」

玲奈の声に、マリナとエドガーもうなずく。


Passage(通路)の途中、突然照明が落ちた。

「助けて……」

遠くから、かすれた声が聞こえる。

久世が冷静に言った。

「この声も仕掛けだ。だが、逆に言えば近い」


貨物室、トイレ、はしごを越え、最後の「Escape」へ辿り着く。

そこは、金属製の扉で封鎖された密室だった。
扉には、最後のアルファベットが刻まれている。

「F」

すべてのコードが揃った。


鍵を開け、扉の奥へ進むと、そこには衝撃の光景が広がっていた。

第9章:監禁部屋の場所と脱出の計画

金属製の扉を開けた瞬間、鋭い薬品の匂いが漂った。
そこは、コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間。
医療用のベッド、監視カメラ、簡易な生活用品――そして、隅で倒れている女性。

「アリシア!」

玲奈が駆け寄ると、女性の手首には拘束バンド、口元には乾いた血の跡が残っていた。
だが、かすかに胸が上下している。
生きている。


相沢真人が辺りを見渡し、苦々しい声を漏らした。

「やっぱりだ……“ここ”は、元々は船医の隔離室だった場所。
6年前、消された階層“Fデッキ”の実態は、
問題客や不法滞在者、騒ぎを起こした奴らを“処理”するための密室だ」

玲奈は震えた。

「まさか、クルーズ会社ぐるみで?」

久世誠一がスマホを操作し、航路と船の設計図を照らし合わせる。

「この部屋は、次の寄港地・マルタ島で完全に密閉され、痕跡ごと消される。
つまり、今救い出さなきゃアリシアは“事故死扱い”にされる」


計画は、時間との戦いだった。

まず、貨物用エレベーターで地上デッキまでアリシアを搬送

マリナとエドガーがSNSを使い、外部へ“異常事態”を拡散

久世は投資家ネットワークでメディアを動かす

相沢はクルーを引き付ける陽動役

玲奈はアリシアの脱出をサポート

「正面突破しかない。だが、ここまで来たら後には引けない」

全員がうなずいた。


直後、船内スピーカーから不吉なアナウンスが響く。

「Attention please.
All passengers, stay inside your rooms.
Technical inspection in progress…」

テクニカル・インスペクション――“事故処理”の始まりだった。


彼らは動き出した。

脱出計画のタイムリミットは、わずか30分。
成功するか、消されるか。

運命の最後の戦いが始まる。

第10章:真犯人と、船に刻まれた真実

エレベーターの中、玲奈はアリシア夫人を支えながら祈るように息を整えた。
貨物用リフトはゆっくりと上昇する。
あと数分でデッキに着く、そのはずだった。

だが、到着した先で待ち構えていたのは、黒服のセキュリティと、意外な人物だった。

久世誠一――投資家の男。

「君たち、よくここまで来たね」

冷たい笑みを浮かべた久世は、懐から電子端末を取り出した。
そこには、船内の監視カメラ映像と、これまでのアルファベットの配置図が映し出されている。

「全部、俺が仕掛けた。アルファベットも、放送も、“Fデッキ”も」


マリナとエドガーが駆け寄るが、黒服に制止される。
相沢真人は拳を握りしめた。

「お前……6年前も、同じことをやってたな」

久世の笑みが深まる。

「この船はな、退屈を嫌う富裕層の“娯楽装置”だよ。
緊張感とスリル、ちょっとした行方不明者、それがブランド価値を高める。
SNSで拡散された“失踪ミステリー”こそ、最高の宣伝なんだ


玲奈は震える手でスマホを握った。

そのとき、相沢がポケットから小型の発信機を取り出し、久世に投げつけた。

「録音も、映像も、もう送信済みだ」

マリナとエドガーがSNSライブ配信を開始、船内の異常事態が世界中に拡散された。

「何をした!?」

久世が叫ぶ間もなく、外部のメディアと警察が次の寄港地・マルタ島で待ち受けていることが明らかになる。


混乱の中、玲奈たちはアリシア夫人を連れてデッキへと走った。

数時間後、久世は逮捕。
《オデッセイ号》の裏の顔と、アルファベット・コードの真実は世界に知れ渡った。


エピローグ

地中海を後にした玲奈は、船を見上げながらつぶやいた。

「“アルファベット”は、もう終わりだよね」

相沢が苦笑する。

「どうかな。この世に、消せない真実は、まだまだある」

玲奈はポケットの中のペンダントを握った。

そこには、小さなアルファベットが刻まれていた。

「Q」

すべては、まだ始まりに過ぎない――。

あとがき

あなたの乗る“安全なはずの場所”にも、見えないアルファベットが刻まれているかもしれません。 真実はいつも、表のすぐ裏側に隠されています。

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