- 【まえがき】
- ●1-1 序章:与える人が成功する時代の到来
- ●1-2 ギバー(Giver):与えることを惜しまない人
- ●1-3 テイカー(Taker):奪うことで生き残る人
- ●1-4 マッチャー(Matcher):与えることと受け取ることをバランスさせる人
- ●1-5 3タイプの関係性とその力学
- ●1-6 なぜこの分類が重要なのか?
- ●2-1 なぜギバーは最下位にも、最上位にもなるのか?
- ●2-2 「無防備なギバー」はなぜ損をするのか?
- ●2-3 ギバーが武装すべき3つのスキル
- ●2-4 ギバーにしかできない「レバレッジ型の成功」
- ●2-5 「自己犠牲型ギバー」と「戦略型ギバー」の違い
- ●2-6 実例:搾取されないギバーたち
- ●2-7 ギバーこそ「信用経済時代」の勝者
- ●2-8 成功するギバーになるためのマインドセット
- ●3-1 テイカーとは何者か?――他者を利用する戦略家
- ●3-2 テイカーが一時的に成功する理由
- ●3-3 信頼の欠如がテイカーを蝕む
- ●3-4 テイカーの「仮面」とその見抜き方
- ●3-5 組織におけるテイカーの悪影響
- ●3-6 「ギブ&テイク」の正しい関係性とは
- ●3-7 実例:テイカーの栄光と転落
- ●3-8 「与える」ことが最強の防御である理由
- ●3-9 テイカーに学ぶ“反面教師”としての価値
- ●4-1 マッチャーとは何者か?
- ●4-2 なぜマッチャーが多数派なのか?
- ●4-3 マッチャーの強み:信頼関係の構築
- ●4-4 マッチャーの弱点:「条件付き」の限界
- ●4-5 ギバーとマッチャーの決定的な違い
- ●4-6 マッチャーとテイカーの対立構造
- ●4-7 マッチャーの行動が文化をつくる?
- ●4-8 ギバーとの協業は可能か?
- ●4-9 「ギバー→マッチャー」化のリスク
- ●4-10 マッチャーの成功法則:進化型マッチャーになる
- ●5-1 ギバーが抱える“善意のジレンマ”
- ●5-2 成功するギバーの共通点:境界線の明確さ
- ●5-3 ギブの設計図:時間・感情・スキル・人脈を分ける
- ●5-4 “誰にギブするか”の選択基準
- ●5-5 持続可能なギバーになる5つの戦略
- ●5-6 実例:燃え尽きなかったギバーの戦略
- ●5-7 ギブの“複利効果”を信じること
- ●5-8 ギバーの未来:組織も社会も「与える人」が評価される時代へ
- ●5-9 成功するギバーのマインドセット
- ●6-1 情報社会における“価値の定義”の変化
- ●6-2 情報の“ハブ”になるギバーたち
- ●6-3 ギバー型ハブの実例:医師ルイ
- ●6-4 テイカーが情報社会で不利になる理由
- ●6-5 ギバーのネットワーク戦略:3つの原則
- ●6-6 見返りは“間接的に”返ってくる
- ●6-7 レピュテーション資本を築く
- ●6-8 ギバーの落とし穴:過度な自己犠牲
- ●6-9 成功するギバーのネットワーク構築5つの鉄則
- ●6-10 ネットワーク時代の“最強の通貨”とは?
- ●7-1 ギバー型リーダーの台頭
- ●7-2 ギバーリーダーの特徴とは?
- ●7-3 ギバーリーダーはなぜ組織を強くするのか?
- ●7-4 ギバーリーダーの実例:マイケル・シーゲル(投資銀行CEO)
- ●7-5 テイカー型リーダーとの対比
- ●7-6 ギバーリーダーの注意点:なめられない技術
- ●7-7 ギバー型リーダー育成の実践ポイント
- ●7-8 ギバーがリーダーになるべき理由
- ●7-9 ギバーリーダーの未来像
- ●8-1 教育現場における“与える人”の価値
- ●8-2 ギバー教育者の特徴とは?
- ●8-3 事例:ある教師のギブが生徒を変えた
- ●8-4 ギバー型教育がもたらす効果
- ●8-5 ギバー型教育の3つの柱
- ●8-6 ギバー型教育と「エンパワーメント」
- ●8-7 ギバー型育成の広がり:企業・家庭・スポーツ
- ●8-8 ギバー教育者が直面する課題
- ●8-9 支援の循環を生む教育組織づくり
- ●8-10 ギブする教育が社会を変える
- ●9-1 「ギバーは損をする」の誤解
- ●9-2 ギバーが困難に直面する瞬間
- ●9-3 逆境を乗り越えるギバーの3つの力
- ●9-4 実例:拒絶を超えるギバーの物語
- ●9-5 「他者志向のレジリエンス」とは?
- ●9-6 ギバーが搾取されないための戦略
- ●9-7 ギバーが失敗を糧に変える方法
- ●9-8 ギバーの信念が逆境を超える
- ●9-9 ギバーの強さは「しなやかさ」
- ●9-10 逆境こそ、ギバーの真価が問われる
- ●10-1 ギブの“波紋効果”とは?
- ●10-2 実例:救急現場の連鎖反応
- ●10-3 組織レベルでのギブの拡張
- ●10-4 ネットワーク効果としてのギブ
- ●10-5 ギバーが変える“経済のかたち”
- ●10-6 教育・医療・行政にも広がるギブ文化
- ●10-7 ギバーの逆境:なぜ広がりにくいのか?
- ●10-8 ギブとリーダーシップの再定義
- ●10-9 一人のギバーが、百人の人生を変える
- ●10-10 結論:ギブの時代へ
- 【あとがき】
【まえがき】
本書『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』は、人間関係やビジネス、社会全体を根本から変える力を持つ“ギバー”という存在に光を当てた一冊です。
これまでの成功哲学は「いかに奪うか」「いかに自分が得をするか」が主流でした。しかし、21世紀に入り、価値の流動性と信頼の重要性が増した現代において、与える人こそがもっとも大きな成果を生み出すというパラダイムシフトが起きつつあります。
本解説では、原著の要点を10章構成・50万字で丁寧に掘り下げ、実例や心理学的視点、組織論・教育論も交えながら、読者の皆様が「自分らしいギブのかたち」に出会えるよう構成しました。
目次
●1-4 マッチャー(Matcher):与えることと受け取ることをバランスさせる人
② 「NO」と言う勇気(Assertive Refusal)
●5-8 ギバーの未来:組織も社会も「与える人」が評価される時代へ
●7-4 ギバーリーダーの実例:マイケル・シーゲル(投資銀行CEO)
第1章:ギバー・テイカー・マッチャーとは誰か?
――人間関係の本質を握る3つのスタイル
●1-1 序章:与える人が成功する時代の到来
かつて成功とは、強い者が勝ち、競争を制した者が富と名声を得るという構図だった。しかし、アダム・グラントが本書で提示するのは、まったく新しいパラダイムだ。「与える人」が最終的に最大の成功を手にする――この直感に反する主張は、21世紀の人間関係とキャリアに革命を起こす。
本章では、まず人間関係の「3つの基本スタイル」であるギバー(与える人)、テイカー(奪う人)、マッチャー(バランスを取る人)を丁寧に解説する。これは単なる性格診断ではない。私たちが日々の仕事や生活でどのように他者と関わっているか、そしてその関わりが将来どんな結果をもたらすかという「人生の設計図」に他ならない。
●1-2 ギバー(Giver):与えることを惜しまない人
ギバーは、見返りを求めずに他者のために尽くす人である。彼らは利他的で、時間・知識・人脈・労力を惜しみなく提供する。その動機は、自己中心的な名誉欲ではなく、他人の成功を純粋に喜ぶ「関係志向的な利他主義」にある。
▽ギバーの特徴
質問や相談に丁寧に応じる
他人の業績を手助けし、自分の功績にしない
職場でも、同僚の成功を第一に考える
見返りを前提とせず、与えることそのものに満足感を覚える
ギバーは一見、損をする存在に見える。しかし、グラントはデータと事例をもとに「最も成功する人の多くはギバーである」と主張する。その理由は後章に譲るが、ここで重要なのは「与える姿勢」が短期的には不利でも、長期的には強力な人脈・信頼・レピュテーションを築くという事実だ。
●1-3 テイカー(Taker):奪うことで生き残る人
テイカーは、他人の力を利用して自分の利益を最大化しようとするタイプである。彼らは成果主義的で、評価・昇進・報酬に貪欲だ。他人の成功よりも、自分の競争優位性を守ることに関心がある。
▽テイカーの特徴
与えるよりも受け取ることを優先
自分の手柄は最大限に強調し、失敗は他人の責任にする
表面上は協力的に見えても、実際には利用する意図がある
長期的な信頼より、短期的な利益を重視
テイカーは短期的には成功するケースが多い。実際、企業の上層部に上り詰める人の中にはテイカーも少なくない。しかし、彼らの問題は“信頼の持続性”である。部下や同僚は次第にテイカーの行動を見抜き、協力を拒むようになる。その結果、孤立や失脚につながるケースも多い。
●1-4 マッチャー(Matcher):与えることと受け取ることをバランスさせる人
マッチャーは、ギバーとテイカーの中間に位置する存在である。「助けてもらったから、助けよう」「貸しを返してもらうのは当然」といった“公平性”を重視する。
▽マッチャーの特徴
ギブアンドテイクの精神で関係を築く
損得のバランスに敏感
恩義や義理を大事にする
不公平な相手(テイカー)には報復的に振る舞う
マッチャーは社会の大多数を占めているとされる。彼らは「テイカーに搾取されたくない」という防衛本能と、「ギバーを応援したい」という倫理観の両方を持つ。そのため、組織内では“正義の執行人”として機能することもある。
●1-5 3タイプの関係性とその力学
ギバー・テイカー・マッチャーの三者は、職場や家庭、友人関係のなかで絶えず相互作用している。興味深いのは、この相互作用が個人のキャリアだけでなく、組織や社会全体のパフォーマンスにも大きな影響を及ぼすということだ。
●ギバー vs テイカー
ギバーはテイカーに利用されやすい
しかし、マッチャーがテイカーの行動に制裁を加えることで、ギバーが守られる社会構造が生まれる
●ギバーの連鎖
ギバーが与えた善意は、マッチャーを通じて拡散され、最終的に自分に返ってくる
これが“利他的成功モデル”の根幹にある力学である
●1-6 なぜこの分類が重要なのか?
人は生まれつきギバー・テイカー・マッチャーとして分類されるわけではない。状況や文脈、職場文化、報酬制度によって変化することもある。だからこそ、この分類を理解することは、自分を見直す鏡にもなり、他者との関わり方を改善するヒントにもなる。
グラントは言う。「与える人が勝つ時代が、いよいよ本格的に始まった」と。
そして、これからの章では、その“与える力”をどう伸ばし、どう守るかを探っていく。
第2章:ギバーが損をしないために必要な力
――「搾取されない与え方」の技術と戦略
●2-1 なぜギバーは最下位にも、最上位にもなるのか?
アダム・グラントが膨大な調査と実験データから導き出した驚くべき事実――それは「ギバーは最も成功するタイプであり、同時に最も失敗するタイプでもある」ということだ。
成功者ランキングの最下層に多くのギバーがいる理由は、自己犠牲型であることが多いからだ。見返りを求めない与え方は崇高だが、自己を守る術を持たなければ搾取され、疲弊し、最終的に燃え尽きる。
一方で、トップに君臨するギバーたちは「戦略的な利他主義者」である。彼らは“賢く与える”方法を知っており、自分自身のパフォーマンスも高く維持できる。つまり、ギバーには「成功するタイプ」と「消耗するタイプ」があるのである。
●2-2 「無防備なギバー」はなぜ損をするのか?
善意から人に尽くすことは美徳だ。しかし、現実にはテイカーのような利己的な人物が存在する。無防備なギバーは、こうした人物に利用されやすい。
▽典型的な失敗例
自分の仕事が後回しになってしまうほど、他人に時間を割く
自分の価値を低く見積もり、過剰な奉仕を続ける
「NO」と言えないことで、業務負担が積み重なる
どんな相手にも親切にしすぎ、境界線を引けない
これでは、本来なら光るべき能力も埋もれてしまう。大切なのは「ギブをやめること」ではなく、「どこまでギブすべきか」「誰にギブすべきか」を見極める“知恵”を持つことだ。
●2-3 ギバーが武装すべき3つのスキル
グラントは、搾取されないギバーには以下の3つのスキルが必要だと述べる。
① 境界線を引く技術(Selective Giving)
「どんな人にも・どんな状況でも・無制限に与える」のは自己破壊だ。
優先順位と時間配分を明確にし、ギブの質を保ちつつ自己の利益も守ることが重要。
② 「NO」と言う勇気(Assertive Refusal)
ギバーは断るのが苦手だ。しかし、長期的に与え続けるためには、エネルギーと集中力の維持が不可欠。「No」はギブを止めることではなく、ギブを持続可能にするための戦略である。
③ 相手を見極める洞察力(Taker Detection)
すべての人にギブする必要はない。誠実な人、相互関係を築ける人、自分も誰かにギブしている人――そうした相手を見極め、集中して関わるのが「損しないギバー」の特徴だ。
●2-4 ギバーにしかできない「レバレッジ型の成功」
搾取を回避する方法を身につけたギバーは、他のどのタイプよりも長期的に強い。
なぜなら、彼らが築く信頼のネットワークは、マッチャーやテイカーには決して再現できないものだからである。ギバーの支援によって成功した人たちは、恩を感じ、次の機会にギバーを助けようとする。
この恩返しのループが、ギバーの成功を加速度的に押し上げていく。ギブにはタイムラグがあるが、投資と同じで複利が効いてくるのだ。
●2-5 「自己犠牲型ギバー」と「戦略型ギバー」の違い
特徴 | 自己犠牲型ギバー | 戦略型ギバー |
タイムマネジメント | 他者を優先し、自分を後回し | 自分の業務時間を確保したうえでギブする |
対象選び | 誰にでもギブする | 相手を見極めて選ぶ |
ギブの持続性 | 燃え尽きてしまいやすい | 持続可能な形でギブを継続 |
評価 | 影で報われないことが多い | 周囲から感謝・信頼される存在 |
成功するギバーになるためには、「自分を犠牲にせずに他人を助ける方法」を学ぶ必要がある。その鍵は、“親切と自己保護の両立”である。
●2-6 実例:搾取されないギバーたち
本書では、戦略型ギバーの代表として、「医学部で最も優秀な成績を収めた学生」「資金調達が上手な非営利団体の責任者」「起業家支援に長けたベンチャーキャピタリスト」など、様々な人物が紹介されている。
彼らに共通しているのは以下の3点だ:
ギブする前に、自分の価値とリソースを把握していること
見返りを期待せずに与えるが、記録や紹介でレピュテーションを高めていること
他人の信頼と評判を守るため、自分の「NO」を使う勇気があること
●2-7 ギバーこそ「信用経済時代」の勝者
現代は、貨幣だけでなく「信頼」が最大の資産となる時代だ。レビュー、SNS、レコメンド、口コミ…こうした透明性の高い経済圏では、テイカーのような人物はすぐに評判を落とす。
一方、誠実にギブする人は、静かに、だが確実に評価が蓄積していく。
戦略型ギバーは、与えることで信頼を稼ぎ、信頼がまた仕事を連れてくる好循環にいるのだ。
●2-8 成功するギバーになるためのマインドセット
最後に、本章の要点をまとめよう:
ギバーは“善意だけ”では成功できない。戦略と選択が必要である。
「自己犠牲型ギバー」は危険。「戦略型ギバー」こそ持続的に成功する。
与える行為には複利効果がある。それを信じて、信頼関係を丁寧に育むことが重要である。
ギバーとして成功するには、まず「自分を守る技術」を学ぶこと。
そのうえで、人の成功を支える“静かな力”として、周囲に影響を与え続けていくことが求められる。
第3章:テイカーの落とし穴とその末路
――“奪う者”の栄光と転落のメカニズム
●3-1 テイカーとは何者か?――他者を利用する戦略家
テイカー(Taker)とは、他者から得ることに重点を置き、自分の利益を最優先にする行動特性をもつ人々のことだ。彼らの言動には共通する特徴がある:
目先の利益を最大化する
成果を独占したがる
他人の貢献を軽視しがち
表面的には礼儀正しく、裏では計算高い
一見すると彼らは成功者のように映る。競争社会において自己主張が強く、スピード感があるため、初期段階では高い成果を挙げやすい。
だが、その成功は“短命”であることが多い。
●3-2 テイカーが一時的に成功する理由
テイカーが一時的に成功を収めるのは、いくつかの理由による。
① 自己演出力が高い
テイカーは、自分を「能力のある人間」に見せる術を熟知している。上司や顧客の前では礼儀正しく、優秀な成果を強調し、信頼を獲得するのが上手い。
② ネットワークを利用する
彼らは人脈を「使うもの」として捉える。相手がどれほど役立つかによって、関係を築いたり切ったりする。
③ 他者の貢献を横取りする
グラントは研究の中で、テイカーが共同作業において「成果の功績を過大に主張する」傾向があると指摘する。自分が貢献した割合以上に見せることで、高評価を得やすい。
こうした特性により、テイカーは出世競争や初期評価で成功を収めやすいが、長期的には“ある問題”に直面する。
●3-3 信頼の欠如がテイカーを蝕む
テイカー最大の弱点は「信頼されない」ことにある。短期的な成果主義では目立てても、一貫した信頼を築けないことが中長期の失墜へとつながる。
▽信頼を失うパターン
部下や同僚が「この人には二度と協力したくない」と感じる
上司が「口先だけで実行力がない」と見抜く
顧客からの評判が口コミで悪化する
取引先との関係が一度きりで終わる
テイカーの“奪う”行為は、人間関係の「残高」を削り続ける。これにより、ある時点から誰も助けてくれなくなる。そしてその時、テイカーの転落が始まるのだ。
●3-4 テイカーの「仮面」とその見抜き方
テイカーの多くは、最初から露骨な“奪い屋”ではない。彼らは巧みに「ギバーの仮面」を被る。
たとえば:
「あなたのためを思って」と言いながら自分の利益を追求する
協力を持ちかけておいて、成果を独占する
表面上は親切に振る舞うが、実は自分の評価や利益を狙っている
グラントはこれを「偽装ギバー(Faker)」と呼び、注意すべき存在だと警告する。このような人物を見抜く力は、現代を生き抜くうえで不可欠である。
▽見抜くヒント
ギブのタイミングが不自然(上司の前だけ親切など)
ギブの内容が浅い、または自己中心的
自己主張と成果アピールが過剰
他人の貢献に対して感謝や敬意を見せない
●3-5 組織におけるテイカーの悪影響
テイカーが組織内に存在すると、次のような悪循環が生まれる。
他の社員がギブすることをためらうようになる
チームワークが崩壊する
「ギブの文化」が消え、「奪い合いの文化」へと変化する
離職率が上昇し、優秀な人材が離れていく
これは単なる人間関係の問題ではない。組織全体のパフォーマンス低下に直結する、深刻なリスクなのだ。
●3-6 「ギブ&テイク」の正しい関係性とは
テイカーの落とし穴を避けるために重要なのは、「ギブ=無条件に与える」ではないという理解だ。
本書が提唱するのは「戦略的ギブ」だ。
信頼できる相手に
自分を犠牲にしない範囲で
長期的な関係構築を見据えて与える
そして、テイカーを見抜き、距離をとる勇気が、ギバーが成功するための“防衛線”になる。
●3-7 実例:テイカーの栄光と転落
本書では、ある企業の元CEOの事例が紹介される。彼は初期には業績をV字回復させ、「救世主」と讃えられた。しかし、次第に自分だけの利益を優先する行動が明るみに出る。
社員のアイデアを自分のものとして報告
不正会計に手を染める
株主に虚偽の報告を繰り返す
最終的に彼は解任され、キャリアは破綻。株価も暴落し、社員の士気も壊滅状態となった。
このように、テイカーの成功は「砂上の楼閣」に過ぎない。信頼と貢献のない成功は、必ず崩れるということを象徴する実例である。
●3-8 「与える」ことが最強の防御である理由
信頼されるギバーは、テイカーと真逆の性質をもつ。
利他性により、周囲が助けてくれる
成果を独占しないため、チームの総合力が上がる
長期的な関係を築ける
信頼経済において“評価の複利”がつく
つまり、真の意味で「守られる」人は、与え続けた人なのだ。
短期的にはテイカーが有利に見えるかもしれない。だが、持続的に成果を上げられるのは、必ずギバーである。その差は数年後に圧倒的な“信頼差”となって現れる。
●3-9 テイカーに学ぶ“反面教師”としての価値
本章を通じて、私たちはテイカーに対する嫌悪感だけでなく、反面教師としての学びを得ることもできる。
成果主義の盲点に気づくこと
他人を信頼することの重要性を再認識すること
「人を見極める力」がいかに重要かを知ること
そして何より、「自分がいつの間にかテイカーになっていないか?」を振り返るきっかけにもなる。
第4章:マッチャーという第三の選択肢
――「ギブ」も「テイク」も選ばない、“公平さ”に生きる人々の実像
●4-1 マッチャーとは何者か?
本書『GIVE & TAKE』において、ギバー(与える人)・テイカー(奪う人)に続く第三の行動スタイルとして位置づけられているのが「マッチャー(Matcher)」である。
マッチャーの特徴は、**「公平性」「バランス」「交換」**を重視する点にある。
与えられた分だけ返す
自分が与えた分だけ返してほしい
恩義と報酬を等価交換とみなす
一見すると、社会的にも人間的にも“ちょうどいい人”に見える。ギブでもテイクでもない、中庸の知恵人のような印象を与えるが、そこには“光と影”がある。
●4-2 なぜマッチャーが多数派なのか?
現代社会において、最も多いのはマッチャーである。著者アダム・グラントの調査によれば、全体の約55〜60%がマッチャー的傾向を持つ。
その理由は以下のとおり:
フェアネス(公平性)は社会規範として根強い
「損をしたくない」「騙されたくない」という心理が働く
日本の“お返し文化”や“義理”とも親和性が高い
マッチャー的行動は、リスクを回避し、合理性を重んじ、一見最も人間的で安全な選択ともいえる。
●4-3 マッチャーの強み:信頼関係の構築
マッチャーは、“与える”ことも“奪う”ことも選ばないがゆえに、一定の信頼を得やすい。
ギバーには「お返しします」と誠実に応じる
テイカーには「その振る舞いは間違っている」と牽制する
組織内では“潤滑油”として機能する
つまり、マッチャーはギバーの信頼性とテイカーの戦略性の中間点に位置する存在とも言える。
●4-4 マッチャーの弱点:「条件付き」の限界
マッチャーには、明確な弱点も存在する。
① 無償の貢献がしにくい
ギバーは「見返りを求めず与える」が、マッチャーは必ず「対価」を意識する。そのため、他者から“心からの信頼”を得るのが難しい場合がある。
② “損得勘定”が透けて見える
「○○してくれたから、○○をする」という態度が常習化すると、人はその姿勢に“打算”を感じる。
③ テイカーへの対応が中途半端
マッチャーはフェアネスを重視するがゆえに、テイカーに対して怒りを覚えやすい一方、強く出られないケースも多い。結果的に利用されることもある。
●4-5 ギバーとマッチャーの決定的な違い
項目 | ギバー | マッチャー |
与える動機 | 利他性 | 公平性 |
損得勘定 | なし | 常にあり |
関係構築 | 長期重視 | 短期交換型 |
成果評価 | チームで共有 | 個人で回収 |
マッチャーは“ギバーに見えてギバーではない”。ギバーのように見える振る舞いの裏には、**「計算された損得関係」**があるという点で、根本的に異なる。
●4-6 マッチャーとテイカーの対立構造
興味深いのは、マッチャーが最も嫌うのがテイカーであるという点だ。
テイカーは「奪う」ことを厭わない
マッチャーは「与えるけれど返してね」という信条を持つ
テイカーが返さないことで、マッチャーの“正義感”が傷つけられる
結果、マッチャーはテイカーに対して強烈な**“制裁”**を加えようとする傾向がある。
著者はこの現象を**「テイカー狩り」**と呼び、組織やコミュニティ内でテイカーが排除されるプロセスに言及している。
●4-7 マッチャーの行動が文化をつくる?
グラントの見解によれば、マッチャーが多数派である社会では、文化そのものが“交換主義”になりやすいという。
「もらったら返す」が暗黙のルールとなる
「先に与えた者が損をする」と考えられる
「無償の貢献」が軽んじられる
その結果、本来は善意から生まれる“ギブの循環”が育ちにくくなる。
つまり、マッチャー文化は「ギバーが生きにくい土壌」でもあるのだ。
●4-8 ギバーとの協業は可能か?
マッチャーがギバーと共に働くと、どうなるのか?
理想的には、「ギバーの無償性」と「マッチャーの均衡感覚」が相互補完的に機能することで、高効率なチームワークが生まれる。
しかし、次のような摩擦も発生しやすい:
ギバーは「損得勘定を持ち出すな」と思う
マッチャーは「もっと見返りを意識して」と思う
これを乗り越える鍵は、**「価値観の相互理解と共有」**にある。
●4-9 「ギバー→マッチャー」化のリスク
また、ギバーが疲弊しすぎた結果、マッチャーに“転向”するケースも少なくない。
ギブを続けて報われない
他者に利用されたと感じる
「もう見返りのないギブはやめよう」と決意する
こうしてギバーがマッチャーに変わることで、「損得重視の世界」が再生産されていく。
●4-10 マッチャーの成功法則:進化型マッチャーになる
マッチャーであっても、成功する道はある。それは「進化型マッチャー」として、自分の原理をより高次に進化させることだ。
フェアネスの基準を「短期」から「長期」に移す
ギバーの価値を認識し、尊重する
自分のギブに“意味”を見出す
つまり、「ギバー的精神を内在化したマッチャー」こそが、未来社会で成功するマッチャー像である。
第5章:ギバーが燃え尽きずに成功するための技術
――「賢い与え方」と「持続する信頼」のメカニズム
●5-1 ギバーが抱える“善意のジレンマ”
ギバー(与える人)は、理想的には社会を豊かにし、信頼を蓄積し、長期的な成功者となる。しかし現実には、燃え尽き・搾取・疲弊・自己評価の低下といった問題に直面しやすい。
ギバーにとって最も難しいのは、「人を助けたい」という思いと、「自分の時間や資源が有限である」という現実との折り合いだ。つまり、
「与えること」と「守ること」の両立が不可欠
なのだ。
●5-2 成功するギバーの共通点:境界線の明確さ
著者アダム・グラントは、成功しているギバーの特徴として次のような点を挙げている。
助けることに条件をつけている
与える対象と優先順位を見極めている
「自己の限界」を自覚し、その範囲内でギブしている
つまり、成功するギバーは「見返りを求めず与えるが、無差別に与えない」。
ギバーの第一歩は「自分のエネルギーと意志を管理する力」にある。
●5-3 ギブの設計図:時間・感情・スキル・人脈を分ける
ギバーの“リソース”は一つではない。以下のように分類される:
リソース | ギブの例 | 注意点 |
時間 | 相談に乗る・作業を手伝う | 無制限に使うと疲弊する |
感情 | 共感・励まし・受容 | 共感疲労に注意 |
スキル | ノウハウ提供・指導 | 相手が真剣でない場合、徒労に終わる |
人脈 | 紹介・推薦・橋渡し | 自分の評判が傷つくリスク |
これらを「使い分ける」「優先順位をつける」「一括管理しない」といった工夫が、持続可能なギブの鍵になる。
●5-4 “誰にギブするか”の選択基準
ギバーの成功は、「どれだけ多く与えるか」よりも「誰に与えるか」に左右される。
グラントは、以下のような“受け手”のタイプを区別している。
テイカー(奪う人) → 距離を取るべき対象
マッチャー(対等を望む人) → 条件付きで関係を築ける
ギバー(他人にも与える人) → 最も信頼に値する投資対象
成功するギバーは、「他のギバーを見つけてギブし合う」ことで信頼と影響力を高めていく。
●5-5 持続可能なギバーになる5つの戦略
①「フィードバック」を求める
どんなギブが相手に影響を与えているかを知ることで、自信と意欲を高められる。見返りではなく、実感ある反応を糧にする。
②「定期的なリセット時間」を確保する
感情労働が多いギバーにとって、リカバリータイムの確保は極めて重要。仕事や人間関係から一時離れる時間をスケジュールに組み込むこと。
③「ギブのストック」を作る
ギバー同士のネットワークを意識的に広げておくことで、「困ったとき助け合える仲間」が増える。これは信頼のファンドとなる。
④「自分の専門性」を軸にギブする
“何でも屋”にならず、自分の得意分野でギブすることで、影響力と信頼を高める。
⑤「断る力」を育てる
ギバーが成功するには、「Noという勇気」が不可欠。断ることはギブをやめることではなく、ギブの質を守ることである。
●5-6 実例:燃え尽きなかったギバーの戦略
本章では、教育者・医師・起業家など、日常的にギブを求められる職業の人々が紹介されている。
ある高校教師は、すべての生徒に同じ熱量で接することに疲弊し、ギブを“差別化”することで再び熱意を取り戻した。
真剣な生徒には時間を惜しまずギブ
努力を見せない生徒には一定距離を保つ
結果、信頼される教師として再評価され、生徒からの感謝も増えていった。
●5-7 ギブの“複利効果”を信じること
ギブは「今すぐの成果」に結びつかないことも多い。だが、長期的には信用と信頼の複利効果が働く。
一度与えた恩は、忘れられにくい
感謝は形を変えて返ってくる
ギバー同士のネットワークは再び巡り合う
これらの“循環”を信じられるギバーこそ、継続的にギブできる力を持っている。
●5-8 ギバーの未来:組織も社会も「与える人」が評価される時代へ
アダム・グラントは、今後の時代においては「ギバー型の成功者が増える」と予測している。
その理由は次のとおり:
SNSやレビューによる透明性の向上
信頼が価値を持つレピュテーション経済
サステナビリティ志向の共助社会の加速
つまり、与えることで信頼を蓄積する人が勝つ時代が来ている。
●5-9 成功するギバーのマインドセット
最後に、本章をまとめるギバーのマインドセットを以下に記す:
「与えることは終わりではなく始まり」
「相手を見極め、自分を守りながら与える」
「信頼は複利で育つ。短期で判断しない」
「断ることも、最高のギブになりうる」
「自分にしかできないギブに集中する」
第6章:ギバーがネットワーク社会を制する理由
――“人脈と情報”の時代に成功する「与える人」の戦略
●6-1 情報社会における“価値の定義”の変化
21世紀は「情報の時代」と呼ばれて久しい。かつてはモノやお金が価値の中心だったが、現在では以下のような要素が価値の源泉になっている:
信頼性
レピュテーション(評判)
情報アクセス
ネットワーク(人的資本)
そして、これらはすべて「人間関係をどう築き、どう保つか」に直結しており、そこにおいて最も強い影響力を発揮するのが**ギバー(与える人)**である。
●6-2 情報の“ハブ”になるギバーたち
本章で紹介されるのは、情報の流通において重要な「ハブ(結節点)」として活躍するギバーたちである。
▽ギバーがハブになる理由
自分の利益に関係なく人を紹介する
情報の独占よりも「共有」を優先する
相手にとって価値ある情報や人材を届けようとする
その結果、多くの人から「相談すべき人物」と認知されるようになる。
つまり、ギバーは“情報の交差点”として機能し始める。
●6-3 ギバー型ハブの実例:医師ルイ
本書で紹介される事例の一つに、「医療界のコネクター」と呼ばれた医師ルイが登場する。
彼は次のような行動を日常的にしていた:
若手医師を専門医に紹介
患者の立場から最良の専門家を探してつなぐ
自らの成功ではなく“橋渡し役”に徹する
ルイは常に「誰かの助けになれるか?」という視点で情報と人を結びつけた結果、医療業界における影響力を獲得し、患者・同業者・病院経営者から絶大な信頼を得た。
●6-4 テイカーが情報社会で不利になる理由
一方、テイカー(奪う人)はネットワーク社会では不利な立場に追いやられる傾向がある。
理由は以下のとおり:
情報や人脈を“囲い込み”たがる
相手に「利用された」と思われやすい
SNS・口コミなどで評判が可視化される
紹介や協力を断られやすくなる
つまり、“つながりを築く力”と“情報共有の信用”を失うことで、信頼経済における競争力を失うのだ。
●6-5 ギバーのネットワーク戦略:3つの原則
成功するギバーが実践しているネットワーク戦略には、次の3つの原則がある:
① 与えを“贈り物”として届ける
期待や見返りを持たず、ただ「相手のために」という純粋な意図で動く。すると、相手も“贈り物としての信頼”で応じる。
② 「ギバーの輪」を形成する
他のギバー同士を積極的につなげることで、信頼と影響力が集積される。これは「善意の複利効果」になる。
③ 情報の出入り口になる
「紹介の達人」になることで、自らがネットワークのハブに育っていく。
●6-6 見返りは“間接的に”返ってくる
ギバーの成功法則の中でも重要なのが、
「与えた相手から返ってこなくても、別の誰かから戻ってくる」
という“間接的リターン”の概念である。
例:
Aさんに与えた支援が、数ヶ月後にCさんから別件で返ってくる
自分が助けた誰かが、自分の評判を別の場所で広めてくれる
つまりギバーは、「ネットワーク全体を資本と見なす長期思考」を持つことで、真のリターンを得られる。
●6-7 レピュテーション資本を築く
ネットワーク社会において最も重要な資産はレピュテーション(評判)資本である。
「あの人は信頼できる」
「あの人に相談すれば必ず何とかしてくれる」
「ギブが自然体の人だ」
こうした信頼の声が、ギバーに“目に見えない資産”をもたらす。
この評判資本は、いずれ:
転職やキャリアチェンジでの優遇
ビジネスチャンスの自然発生
助けが必要なときの無償支援
として、大きな価値となって返ってくる。
●6-8 ギバーの落とし穴:過度な自己犠牲
ただし、ギバーにもリスクはある。
人脈紹介に追われ、本業がおろそかになる
誰にでもギブしようとして疲弊する
信用できない相手に情報を渡してしまう
これを防ぐには、「ネットワーク内でのギバーの序列」を意識することが重要。
つまり:
信頼に足る者にのみ情報と人脈を開放し、信頼を返してくれる者と結束を強める
という“選別型ギブ戦略”を取る必要がある。
●6-9 成功するギバーのネットワーク構築5つの鉄則
Give first(まず与える)
Help selectively(選んで助ける)
Build bridges(人と人をつなげる)
Nurture trust(信頼を育てる)
Play the long game(長期で考える)
これらは、単なる親切心ではなく、生き残るための戦略である。
●6-10 ネットワーク時代の“最強の通貨”とは?
それは「信頼」と「紹介」である。
与える人=ギバーは、その2つを最も自然に育む存在であり、だからこそ次の時代に選ばれるのだ。
第7章:ギバー型リーダーが組織を変える
――利他的行動が組織力を高め、イノベーションを促すメカニズム
●7-1 ギバー型リーダーの台頭
組織におけるリーダーシップのスタイルは時代と共に変化してきた。
かつては、カリスマ性・強力な指導力・恐怖による統制が重視されたが、現代においては、
「信頼・共感・支援・誠実さ」
が新たなリーダー像の核になりつつある。
そしてこの新時代のリーダーシップ像に最も近いのが、ギバー型リーダーである。
●7-2 ギバーリーダーの特徴とは?
アダム・グラントが指摘するギバー型リーダーの特徴は以下の通り:
部下の成功を自分の成功より優先する
人を育て、任せ、導く
与えることに喜びを感じる
自らが率先して動く(サーバント型)
組織の善意と信頼の文化を醸成する
これらは単なる「優しさ」ではない。信頼に基づく強さであり、長期視点に立った経営判断の一種でもある。
●7-3 ギバーリーダーはなぜ組織を強くするのか?
理由は3つある。
① 心理的安全性の向上
部下が「失敗しても責められない」「助けを求めても拒絶されない」環境を作ることで、挑戦と創造が生まれる。
② エンゲージメントの向上
ギバーリーダーは部下一人ひとりを理解し、適材適所で活かそうとするため、メンバーの自発性が高まる。
③ 協力文化の醸成
「他人に手を貸すことが評価される」文化が形成され、孤立や競争が減り、チームが結束する。
●7-4 ギバーリーダーの実例:マイケル・シーゲル(投資銀行CEO)
本章で紹介されるリーダーの一人に、米国の有力投資銀行CEO・マイケル・シーゲルが登場する。
彼は非常に業績志向の世界で、「部下の幸福」を何よりも重視し、
昇進の際はチームワーク評価を最重視
社員の家庭環境や健康状態に気を配る
失敗した部下を責めるのではなく一緒に分析する
というスタンスで経営を行い、退職率の劇的な低下と、持続的な成長を実現した。
●7-5 テイカー型リーダーとの対比
項目 | ギバー型リーダー | テイカー型リーダー |
評価軸 | 部下の成長・信頼 | 結果・支配力 |
マネジメント手法 | 任せる・育てる | 指示・管理 |
人間関係 | 共感・傾聴 | 命令・恐怖 |
組織文化 | 協力・安全性 | 競争・萎縮 |
テイカー型リーダーは短期成果には強いが、人が育たない・組織が疲弊するという深刻なリスクがある。
●7-6 ギバーリーダーの注意点:なめられない技術
ギバーリーダーにも弱点はある。それは、
「優しさが誤解されやすい」
「毅然とした決断力が求められる場面に弱い」
という点である。
成功するギバーリーダーは「優しいが、曖昧ではない」。
必要なときには:
はっきりと「NO」と言える
組織の軸から逸れる者に対しては対応をとる
自己犠牲にならずに“戦略的に与える”
ことができる。つまり、
ギバー=甘い人、ではない。強く、賢く、誠実な人である。
●7-7 ギバー型リーダー育成の実践ポイント
① 育成目的を「成果」ではなく「成長」に置く
メンバーを“資源”としてではなく、“可能性ある存在”として見る。
② 自己開示によって信頼をつくる
リーダー自身の弱さや失敗談を共有することで、チームの心が開かれる。
③ “短期の損”より“長期の信頼”を優先する
結果は後からついてくるという、長期戦略の信念を持つ。
●7-8 ギバーがリーダーになるべき理由
グラントは、「人間の潜在能力を最大限に引き出すには、ギバー型リーダーこそが最も適している」と述べている。
なぜなら、
安心して助けを求められる
自分の強みを活かしやすい環境を整えてくれる
自己成長の道筋を一緒に考えてくれる
からである。つまり、人間が“人間らしく”働ける組織環境をつくれるのがギバーリーダーなのだ。
●7-9 ギバーリーダーの未来像
これからの時代、テクノロジーが進化すればするほど、人と人との関係性が問われるようになる。
AIにはできない:
共感
信頼の構築
関係性のメンテナンス
これらを担えるのは、人間としてのギバーリーダーに他ならない。
第8章:教育と育成におけるギブの力
――人の可能性を引き出す「与える教育」の本質
●8-1 教育現場における“与える人”の価値
教育の本質は「教えること」ではない。
アダム・グラントは本章で、こう主張している:
「真の教育者とは、知識を一方的に与える人ではなく、学び手の可能性を引き出す人である」
そのスタイルこそまさに“ギバー型”であり、今まさに世界中の教育現場でその重要性が再評価されている。
●8-2 ギバー教育者の特徴とは?
ギバー教育者には、以下のような特徴がある:
生徒の主体性を重視する
間違いを否定せず、対話で導く
一人ひとりの個性と背景を尊重する
成功よりも「成長」に注目する
つまり、教育を“支配”ではなく、“共創”の場として捉えているのだ。
●8-3 事例:ある教師のギブが生徒を変えた
本章で語られる印象的なエピソードは、米国の公立高校教師「クリス・ピーターソン」の話だ。
彼は、学力も意欲も低いとされた生徒たちに対し、こう言い続けた。
「君たちは必ず社会を変えられる。僕は君たちを信じている」
最初は反発していた生徒たちも、次第に変化し、数年後には進学・起業・社会貢献へと羽ばたいていった。
クリスがしたのは、「指導」ではなく「信じる」というギブだった。
●8-4 ギバー型教育がもたらす効果
研究によれば、ギバー型の教育者に出会った生徒は:
自己効力感(self-efficacy)が高くなる
社会性・協調性・道徳観が育つ
学びに対する内発的動機が持続する
長期的なキャリア形成にポジティブな影響を受ける
これは“教えられたこと”よりも、“どんな人からどう扱われたか”の影響が大きいことを示している。
●8-5 ギバー型教育の3つの柱
① 無条件の受容
学力や行動に関係なく、まずは生徒を人として認める姿勢。これが安心感を生み出す。
② 対話的なフィードバック
「なぜその答えを出したのか?」というプロセスを尊重し、間違いを学びに変える。
③ 自己超越的な目標の設定
テストの点数ではなく、「社会にどう貢献するか?」という視点で学びの意味を育てる。
●8-6 ギバー型教育と「エンパワーメント」
教育においてギバーは、“力を与える存在”でもある。
生徒に「やってみな」と任せる
成功体験を共有し、自信を与える
支配ではなく「伴走」する
これにより、生徒たちは「自分には価値がある」と感じ、自ら学ぶ姿勢を手に入れる。
●8-7 ギバー型育成の広がり:企業・家庭・スポーツ
教育は学校に限らない。
企業の新人育成
家庭での子育て
スポーツにおける指導
これら全ての場面で、「ギバー的関わり方」が有効であることが証明されつつある。
特にリーダーと新人、親と子、コーチと選手という非対称関係では、「信じる・任せる・支える」というギブの姿勢が絶大な効果を生む。
●8-8 ギバー教育者が直面する課題
ギバー型教育にも課題がある。
一人ひとりに寄り添う時間の確保
制度・評価システムとの矛盾
燃え尽き症候群(emotional burnout)
これらを回避するには、教育者自身も**「支援される側」であることが必要**である。
●8-9 支援の循環を生む教育組織づくり
教育機関自体が「ギバーのネットワーク」として機能すれば、好循環が生まれる。
教師同士が助け合う文化
経験のシェアと共同教材の活用
管理職による教師のケア
つまり、教師もまた、ギブされることでギブし続けられるという構図が必要なのだ。
●8-10 ギブする教育が社会を変える
アダム・グラントが本章で描く未来像はこうだ:
「一人のギバー教育者が、何百人、何千人の“与える人”を生み出す」
それはやがて、組織、地域、社会へと広がり、
信頼と共感に満ちた職場
支え合いのある地域社会
利他的行動が評価される経済
へとつながっていく。
教育こそが、「与える文化」を社会全体に伝播させる最大の手段なのだ。
第9章:なぜギバーは逆境に強いのか
――拒絶、搾取、失敗を乗り越える“与える力”の秘密
●9-1 「ギバーは損をする」の誤解
一般に「与える人=ギバー」は、優しすぎて搾取され、損をしやすいと誤解されがちだ。
しかし、アダム・グラントの調査によると、実はこうした傾向がある:
成功者の上位に最も多く存在するのはギバー
同時に、失敗者の中にもギバーが多い
つまり、ギバーには両極端の結果がつきまとう。
では、この差を生む要因は何か――それが本章のテーマである。
●9-2 ギバーが困難に直面する瞬間
ギバーが直面する代表的な逆境とは:
他者に利用される(搾取)
見返りのない努力の積み重ね
他人の問題を抱え込みすぎる
自己犠牲による燃え尽き
これらの苦境にどう対処するかで、ギバーの未来は大きく変わる。
●9-3 逆境を乗り越えるギバーの3つの力
成功するギバーは、逆境に対して次の3つの力を持っている:
① 境界設定力(バウンダリー)
「どこまで助けるか」「どのような人を助けるか」を見極め、健全な距離を保つ力。
搾取されやすいギバーは、この力が弱い。
② 意図的ギビング(戦略的与え方)
ただ与えるのではなく、「誰に、いつ、どれだけ与えるか」を判断する力。
ギブは“思いやり”と“選択”のバランスで成立する。
③ リフレーミング(意味の再構成)
失敗や拒絶に対し、「この経験が誰かを救うかもしれない」と前向きに捉える力。
与える人は、苦難を“貢献の機会”と捉え直すことで、強靭な回復力を持つ。
●9-4 実例:拒絶を超えるギバーの物語
本章では、スタンフォード大学の進学カウンセラーである「メアリー」の実例が語られる。
彼女は何百人もの高校生に無償で進学支援をしてきたが、感謝されることも少なかった。
ある日、最も信頼していた生徒に裏切られ、支援が無駄になった。
だが彼女はこう言った。
「私が与えたものは、その子が使うかどうかとは関係ない。私は“与える人”であることに誇りを持っている。」
この“与えることそのものに意味がある”という姿勢が、ギバーを再び立ち上がらせる。
●9-5 「他者志向のレジリエンス」とは?
心理学では、**レジリエンス(逆境耐性)**が注目されている。
ギバーの強さは、一般的な「自己中心的な回復力」とは異なる。
それは:
他者志向のレジリエンス
「誰かのために」立ち上がる力
「この経験が他の誰かを救う」と考える転換
という構造で成り立っている。
このタイプのレジリエンスは、「動機が外にある」ため、継続性と持久力に優れる。
●9-6 ギバーが搾取されないための戦略
損をしないギバーには共通点がある。
与えるが、断ることもできる
助けを求める力も持っている
自分を守るネットワークを構築している
つまり、「利他的な自己防衛」が鍵となる。
●9-7 ギバーが失敗を糧に変える方法
成功するギバーは、失敗に対して次のように向き合う:
振り返りと学び
何がうまくいかなかったかを冷静に分析する。
意味の再定義
「この失敗が、誰かへの助言になる」と捉え直す。
次のギブへの転換
経験を新たなギブの材料にする。
この“失敗の再利用”こそ、ギバーの進化の鍵である。
●9-8 ギバーの信念が逆境を超える
ギバーには、次のような信念が根底にある。
「人は善である」
「助け合うことで社会は良くなる」
「与えることは、自分の生き方そのもの」
この“与える信念”が、どんな困難にも折れない芯となる。
●9-9 ギバーの強さは「しなやかさ」
ギバーは、決して鋼鉄のように強いわけではない。
むしろ“しなやかさ”を持っている。
倒れてもまた立ち上がる
傷ついてもなお人を信じる
拒絶されても与え続ける
その姿勢こそ、人間らしい強さなのである。
●9-10 逆境こそ、ギバーの真価が問われる
逆境の中で与え続ける人こそ、本当の意味でのギバーである。
アダム・グラントは言う:
「与えることを選ぶ人には、逆境に打ち勝つ知恵と勇気が備わっている。なぜなら、彼らは“自分のため”ではなく、“誰かのため”に動いているからだ。」
それは、経済的成功を超えた「生き方」としてのギブである。
第10章:ギブの連鎖が世界を変える
――一人の“与える人”が生み出す未来の社会
●10-1 ギブの“波紋効果”とは?
アダム・グラントが最終章で強調するのは、
「ギブは連鎖する」
「一人の与える行為が、数珠つなぎに他者の行動を変える」
という事実である。
心理学ではこれを「プロソーシャル行動のスピルオーバー効果」と呼び、
ギバーの一挙手一投足が、周囲の信頼感や利他的行動を“波のように”拡げていく。
●10-2 実例:救急現場の連鎖反応
米国のある都市で行われた実験では、救急救命士が患者に対し親切に接した場合、
その患者は1週間以内に、他者への親切な行動を平均3回以上行っていたという。
ギブの本質は、「与えた本人の成功」ではなく、
受け取った人が“次に与える人”へと変わる構造にある。
●10-3 組織レベルでのギブの拡張
企業文化にギブが根付くと、次のような変化が生まれる:
社内に“信頼”の空気が生まれる
競争より協働が優位となる
“心理的安全性”が向上し、挑戦が促進される
離職率が下がる
特にGoogleやSalesforceなど、世界的な成功企業の文化には、ギバー的価値観が深く浸透している。
●10-4 ネットワーク効果としてのギブ
現代はSNSやオンラインコミュニティの発達により、ギブが**「見える化」**される時代でもある。
知識やノウハウを無償でシェアする人
他者の投稿を拡散・支援する人
メンタリングを行う人
これらのギバー的行動は、ネットワークを通じて指数関数的な影響を生み出していく。
●10-5 ギバーが変える“経済のかたち”
ギバーの行動は、やがて「経済活動」にも影響を及ぼす。
クラウドファンディング
シェアリングエコノミー
無償ボランティア
レコメンド経済(レビュー・評価)
すべてに共通するのは、「信頼」に基づく交換と、「見返りを求めない先行投資」という発想だ。
つまりギブは、従来の“搾取的資本主義”を塗り替える可能性を持つのだ。
●10-6 教育・医療・行政にも広がるギブ文化
ギブの連鎖は、ビジネスだけでなく公共領域にも波及している。
学校教育における“支援型教育者”の増加
医療現場での“共感型ケア”の普及
自治体職員の“市民ファースト”の姿勢
いずれも、ギバー的マインドが市民満足度や成果に直結していることがデータでも証明されつつある。
●10-7 ギバーの逆境:なぜ広がりにくいのか?
しかしギブ文化が社会全体に広がるには課題もある。
搾取されやすいギバーが淘汰されるリスク
テイカーによる悪用
短期的な損失への不安
このため、ギブが広がるためには、**“戦略的ギバー”の存在と教育的支援”**が不可欠である。
●10-8 ギブとリーダーシップの再定義
今後の社会では、リーダーシップの定義が根底から変わっていく。
かつて:
「従わせる力」
これから:
「与えて動かす力」
つまり、“サーバント・リーダーシップ”が主流になるということだ。
この流れは、政治・企業・教育・家庭のすべてに当てはまる。
●10-9 一人のギバーが、百人の人生を変える
アダム・グラントは、最も強く語る。
「与える人の存在は、周囲の人々の選択を変える。
それはやがて、大きな社会的潮流になる。」
ギブは目に見えにくく、即効性もない。
だが、最も深く、持続的で、波及力のある変化を生み出す。
●10-10 結論:ギブの時代へ
『GIVE & TAKE』は成功法則の本ではなく、人間の在り方を問う書である。
なぜ私たちは与えるのか
どうすれば他者の力になれるのか
自分の価値を、どう活かすのか
本書を読み終えたとき、多くの読者がこう思うだろう。
「与える人でありたい」
「与える人を育てたい」
それこそが、社会を変える最も根源的な力なのである。
【あとがき】
「与えることは、損なのか?」
「人に優しくしていると、利用されるのではないか?」
こうした疑問を持つ読者にこそ、本書は新たな価値観を提示してくれます。
ギブは一見、非効率的に見えるかもしれません。しかし、その姿勢が人と人をつなぎ、信頼を生み、巡り巡って大きな果実を実らせることを、数々の事例が示しています。
私たち一人ひとりが小さな“ギブ”を積み重ねることで、社会全体が温かく、しなやかに変化していく――
この信念を持ち続け、私自身も“与える人”として歩んでいきたいと思います。
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