- まえがき
- ■見えない不調と戦う現代人
- ■文明病とは何か
- ■なぜストレスに弱くなったのか
- ■腸と炎症、そして体調の本質
- ■ではどうすればいいのか?
- ■第1章のまとめ
- ■炎症とは何か──体内の免疫防衛システム
- ■現代人はなぜ炎症を抱えやすいのか?
- ■炎症と病気の深い関係
- ■“静かな炎”は、なぜ気づかれにくいのか
- ■炎症を鎮めるには?
- ■第2章のまとめ
- ■食事が健康に与える影響
- ■食べるべき食品と避けるべき食品
- ■食事から始める体調改善
- ■腸内環境が全身に影響する
- ■「リーキーガット」が体調を崩す
- ■腸と感情の深い関係
- ■腸内環境を整える具体的アプローチ
- ■ストレスと腸の相関関係
- ■第4章のまとめ
- ■人間は「進化の速度」に追いつけない
- ■文明病とは何か?
- ■光と時間感覚のゆがみ
- ■情報とストレスの洪水
- ■孤独と運動不足という二重苦
- ■「原始の生活」に戻すことが体調改善の鍵
- ■第5章のまとめ
- ■1. 光を味方につける:「太陽のリズム」に従う
- ■2. 腸に優しく生きる:「第二の脳」のメンテナンス
- ■3. 動きとともに生きる:「本能が求める運動」を再起動せよ
- ■4. 孤独を避け、つながりを持つ:「社会的哺乳類」としての原点に帰る
- ■5. 情報を絞る:「脳の許容量」を守る知的ミニマリズム
- ■6. ストレスとの付き合い方:「戦う」ではなく「なだめる」
- ■第6章のまとめ
- ■炎症とは何か?
- ■なぜ炎症が慢性化するのか?
- ■「炎症レベル」を測るバロメーターとは?
- ■慢性炎症を鎮める7つの具体策
- ■第7章のまとめ
- 第8章 環境がすべてを変える:「外側」から人生を再設計せよ
- 第9章 文明病という名の呪縛を断ち切る:「不自然」から「自然」へ戻る勇気
- 第10章 「最高の体調」を一生保つために:進化医学の知恵を日常へ
- 戦略①:ルールは「シンプル」に、でも「自動化」する
- 戦略②:「完璧」ではなく「80点主義」で回す
- 戦略③:「環境が9割」と心得て、設計に注力する
- 戦略④:「回復」を優先するスケジューリング
- あとがき
まえがき
いま、なぜこれほど多くの人が「なんとなく不調」に苦しんでいるのか。
疲れが取れない。集中できない。イライラする。眠れない。病気ではないのに、どこかが不調。
それは、私たちが「文明の進化」と引き換えに、人類本来の体調を失ってしまったからです。
本書は、科学的根拠に基づいた「進化医学」の視点から、最高の体調を取り戻す方法を徹底的に解説したものです。
著者・鈴木祐氏の原著に敬意を表しながら、本書では10章構成に再編し、より深く、より実践的に、あなたの人生を変える知識を届けます。
「何をすれば、体は本来の力を発揮するのか」
「どうすれば、心は落ち着き、思考はクリアになるのか」
その答えを、本書のなかに見つけていただけたら幸いです。
目次
第6章 進化の叡智を日常に:身体と心を整える“本能的”な習慣づくり
■3. 動きとともに生きる:「本能が求める運動」を再起動せよ
■4. 孤独を避け、つながりを持つ:「社会的哺乳類」としての原点に帰る
■6. ストレスとの付き合い方:「戦う」ではなく「なだめる」
第7章 炎症という静かな火種:現代人の「不調の根本原因」を探る
第9章 文明病という名の呪縛を断ち切る:「不自然」から「自然」へ戻る勇気
■第9章のまとめ:不自然な社会に抗うことこそが、最高の体調への第一歩
第10章 「最高の体調」を一生保つために:進化医学の知恵を日常へ
■第10章まとめ:体調を「一時的」ではなく「一生」の資産にするために
��第1章 文明病の正体:不調の源は“現代”にある
私たちは、なぜこんなにも疲れているのだろうか。なぜ、十分に眠っても回復せず、ストレスに苛まれ、集中力が落ち、感情は不安定になるのだろうか。病気というには曖昧すぎる、しかし確実に日々の生活を蝕んでいくこの「不調」。本書が出発点とするのは、このような現代人に共通する「なんとなく不調」の根源的な問いである。
■見えない不調と戦う現代人
現代に生きる多くの人々が、医師の診断名がつかない不調に悩まされている。病気ではないけれど健康とも言えない──そんなグレーゾーンの状態が常態化しているのだ。
この“未病”状態の背景には、明らかに「文明の発展」がある。皮肉なことに、便利さ・豊かさ・快適さを求めて築き上げた現代社会こそが、人間の本来の生き方と乖離し、心身のバランスを崩す原因になっているのだ。
■文明病とは何か
著者はこの現象を「文明病」と呼ぶ。かつて人類が原始的な生活をしていた時代、人は自然に囲まれた環境で、日光を浴び、身体を動かし、動物や植物と共に暮らしていた。睡眠は日没とともに始まり、空腹は食べ物を得るための行動の原動力だった。
しかし現代はどうだろう。過度の人工光、長時間のデスクワーク、加工食品、SNSによる情報の過剰摂取──これらは、すべて人類の歴史で初めて出現した“異常な環境”である。そして我々の身体は、その環境にまだ適応できていない。
たとえば睡眠。現代人の多くが「夜型生活」に傾き、昼夜逆転に近い生活を送っているが、人類の遺伝子は太陽のリズムに合わせた生活リズムに最適化されている。これが長期的な不調の一因となっている。
■なぜストレスに弱くなったのか
文明病の中でも最も重大な影響を与えているのが「慢性的ストレス」である。
狩猟採集時代、人類がストレスを感じるのは、たとえば獣に襲われた瞬間など、短時間で命の危険を回避するための緊急事態のみだった。しかし現代では、「メールの返信が遅れた」「上司の顔色が気になる」「SNSで他人と比較して落ち込む」など、本来危険でもなんでもない状況でストレス反応が起き、しかもそれが何日も継続する。
この慢性的ストレスが自律神経の乱れを引き起こし、内臓の不調、睡眠障害、うつ症状などを連鎖的に生み出す。つまり、ストレス耐性が弱くなったのではなく、現代という環境が、ストレス過剰な構造を持っているのである。
■腸と炎症、そして体調の本質
さらに著者は、現代人の体調不良の中心には「慢性炎症」と「腸内環境の悪化」があるとする。
腸は“第二の脳”とも呼ばれ、感情や免疫、さらには意欲にまで影響を与える重要な器官である。ジャンクフードや添加物、抗生物質の乱用は腸内細菌を破壊し、腸壁のバリア機能を低下させる。すると本来なら体内に入らないはずの異物が侵入し、免疫系が炎症反応を起こす──これが「慢性炎症」だ。
この炎症は、風邪のような一過性の炎症ではなく、静かに、じわじわと、身体のあらゆるシステムに悪影響を及ぼす。自覚しにくいが、集中力の低下、疲労感、気分の落ち込みなど、ほとんどの不調がここに起因している。
■ではどうすればいいのか?
文明病の根源は、「人間本来の生活からの乖離」にある。つまり、健康になるためには、“文明の恩恵を一部手放す”という逆説的な行動が必要なのだ。
夜型から朝型へのシフト
自然の中での活動(森林浴など)
本来の食事(添加物の少ない食品、発酵食品)
SNSやデジタル情報の断捨離
運動と腸内環境の整備
これらはすべて、「進化の原則に合った生活」に戻るためのヒントである。
■第1章のまとめ
この第1章では、現代人が陥る“なんとなく不調”の原因が、実は文明の進歩にあることを明らかにした。そしてその影響は、睡眠、食事、ストレス、腸内環境など、あらゆる面に現れ、複雑に絡み合って体調を悪化させている。
健康を取り戻すために必要なのは、最新のテクノロジーや薬ではなく、「原始的な人間らしい暮らし」への回帰──これが著者の基本的な提言であり、本書全体を貫く核心である。
第2章 炎症:すべての不調は「静かな炎」から始まる
現代人の不調の原因を探っていくと、必ずと言っていいほど浮かび上がってくるキーワードがある。それが「炎症」だ。だが、多くの人がこの言葉に持つイメージは、熱を持った腫れや、風邪のような急性の反応だろう。しかし、著者が問題視しているのは「慢性炎症」と呼ばれる、ごく低レベルながら長期間続く“静かな火種”である。
■炎症とは何か──体内の免疫防衛システム
炎症は、体が外敵や損傷から自分を守るための自然な防御反応である。細菌やウイルス、怪我、毒素などに反応し、免疫細胞が集まって戦う。この戦いの副産物として「熱」「腫れ」「痛み」などの症状が現れる。
このような炎症は、短期間で収束すれば身体を守るものだ。だが、これが終わることなく延々と続くと、逆に身体のあらゆる組織や機能を蝕む“自己攻撃”に変わってしまう。これが慢性炎症である。
■現代人はなぜ炎症を抱えやすいのか?
慢性炎症の背景には、現代的なライフスタイルがある。
加工食品や添加物の過剰摂取
睡眠不足や夜型生活
運動不足
精神的ストレス
喫煙・アルコール
スマホやSNSによる情報過多
これらの刺激は、体にとって「異物」や「脅威」として認識される。たとえば、ジャンクフードを常食すると、腸内環境が悪化し、腸壁から“本来通ってはいけない物質”が血中に流れ込む。すると免疫系がこれを攻撃しようとして炎症反応が起きる。
このようにして、目に見えない形でじわじわと炎症が広がっていくのだ。
■炎症と病気の深い関係
驚くべきことに、現代の主な疾患──心疾患、糖尿病、がん、アルツハイマー、うつ病など──の多くに、慢性炎症が関与していることがわかってきた。
たとえばアルツハイマーは、脳内の免疫細胞「ミクログリア」が過剰に働き続けることで炎症を起こし、神経細胞を損傷するというメカニズムが指摘されている。また、うつ病も脳内の炎症反応と密接な関係にあることが明らかになってきた。
つまり、炎症は「身体の病気」だけでなく、「心の病気」にも直結しているのだ。
■“静かな炎”は、なぜ気づかれにくいのか
慢性炎症の厄介な点は、その症状があまりにも“ささい”なことだ。
朝起きても疲れが取れない
集中力が続かない
イライラしやすい
風邪を引きやすくなった
体重が落ちにくい
これらは一見すると加齢や生活習慣の問題に見える。しかし実際には、すべてが慢性炎症とつながっている可能性がある。
さらに、医師の検査でも明確な異常が見つかりにくいため、「年のせいですね」と片づけられてしまうことが多い。結果として、長期にわたって不調が続き、深刻な病気へと移行していく。
■炎症を鎮めるには?
慢性炎症は「沈黙の火事」である。そして、この火を静かに消すためには、日常の習慣を見直すことが何よりも大切だ。以下は著者が推奨する主な方法である。
腸内環境の改善
→ 発酵食品(納豆、味噌、ヨーグルト)を取り入れ、プレバイオティクス(食物繊維)を豊富に摂る。
炎症を抑える食材を選ぶ
→ オメガ3脂肪酸(青魚・亜麻仁油など)や、抗酸化作用のある野菜・果物を意識的に摂取。
睡眠の質を高める
→ 1日7〜8時間の良質な睡眠が、免疫系の正常化に不可欠。
ストレスマネジメント
→ マインドフルネスや瞑想などで交感神経の過活動を抑える。
軽い運動の習慣化
→ ウォーキングやストレッチなど、無理のない運動を定期的に取り入れる。
■第2章のまとめ
「慢性炎症」というキーワードは、現代人のほぼすべての不調にかかわる中心軸だ。そしてこの“静かな炎”は、我々の生活習慣の積み重ねによって着火され、燃え続ける。
炎症を制すことは、すなわち体調を制すること。見えない火種を見逃さず、日々の選択で少しずつ炎を鎮めていく──それが「最高の体調」への第一歩なのである。
第3章 食事と栄養:体の回復を助ける食の力
私たちが健康を維持するために最も基本的かつ重要なのが「食事」である。食べ物が体に与える影響は計り知れず、適切な食事ができていれば、体調不良や慢性疾患の予防に大きく貢献する。しかし、現代の食生活では、外食や加工食品に頼ることが多く、栄養が偏りがちである。その結果、慢性炎症や代謝の不調が引き起こされ、最終的には病気を招いてしまう。
本章では、健康的な食事がどのように私たちの体調を改善し、回復を助けるのか、そのメカニズムを解説し、実際に取り入れるべき食材や食習慣を紹介する。
■食事が健康に与える影響
食事が与える影響は、単にカロリーの摂取量にとどまらない。食べ物が消化される過程で、さまざまな栄養素が体内で働き、細胞を修復し、エネルギーを生み出し、免疫系をサポートする。また、食べ物は腸内細菌にも大きな影響を与える。腸内環境の良し悪しが、体全体の健康に直結するため、食べ物が健康の基盤を作るといっても過言ではない。
現代人の食事は、カロリー過多でありながら栄養が不足していることが多い。特に、加工食品やファーストフードに頼ると、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足し、体の機能が低下する。また、過剰な糖質や脂肪の摂取は、体内で炎症を引き起こし、さまざまな病気のリスクを高める。
■栄養素の重要性
本書では、特に注目すべき栄養素をいくつか挙げ、それがどのように体の機能をサポートするかを説明している。主に以下の栄養素が重要である。
ビタミンC:免疫機能を高め、抗酸化作用により細胞のダメージを防ぐ。
オメガ3脂肪酸:炎症を抑え、心臓病やがんの予防に役立つ。
食物繊維:腸内環境を整え、便通を改善し、慢性疾患のリスクを減らす。
マグネシウム:筋肉や神経の機能をサポートし、リラックス効果をもたらす。
ビタミンD:骨の健康を守り、免疫系の正常な働きを支える。
これらの栄養素を食事から十分に摂取することが、体調を整えるうえで不可欠である。
■食べるべき食品と避けるべき食品
栄養素が豊富で健康的な食事を摂ることが、体調の改善には欠かせない。しかし、どの食品を選ぶかによって、体調に与える影響が大きく変わる。
食べるべき食品
野菜と果物
野菜と果物には、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質が豊富に含まれている。特に色鮮やかなものを選ぶことで、これらの栄養素を効率よく摂取できる。緑黄色野菜やベリー類、柑橘類は特にお勧めだ。
発酵食品
納豆、ヨーグルト、味噌、キムチなどの発酵食品には、腸内環境を整える善玉菌が含まれており、消化器官の健康を保つうえで重要である。
魚類(特に青魚)
青魚には、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、これが炎症を抑える役割を果たす。鮭、サバ、イワシなどを定期的に摂取することが推奨される。
全粒穀物
白米や白パンではなく、玄米や全粒粉のパンを選ぶことで、食物繊維やビタミンB群をしっかり摂取することができる。
ナッツ類と種子類
アーモンド、くるみ、チアシード、亜麻仁などのナッツや種子は、健康的な脂肪やたんぱく質が豊富で、間食に最適である。
避けるべき食品
加工食品やジャンクフード
これらの食品は、添加物や人工甘味料、トランス脂肪酸を多く含み、体に炎症を引き起こす原因となる。加工肉や揚げ物、菓子類はできるだけ避けるべきだ。
高糖質食品
砂糖が多く含まれる食品や飲料は、血糖値を急上昇させ、インスリン抵抗性を引き起こす。特に清涼飲料水やお菓子には注意が必要である。
過剰なアルコール
アルコールは肝臓に負担をかけ、免疫系を弱めることがある。適量を守り、頻繁に摂取しないことが大切だ。
■食事から始める体調改善
本章で述べたように、食事は体調改善において最も基本的な要素であり、最も効果的な手段である。日々の食事を見直すことで、慢性的な疲れや不調を改善し、健康的な体を作り上げることができる。
健康的な食生活を送るためには、「摂るべき栄養素」を意識し、バランスの取れた食事を心がけることが基本だ。特に「食べ過ぎ」や「偏り」を避け、食品の選び方を工夫することで、健康状態は劇的に改善される。
また、食事は単なるエネルギー源ではなく、体の材料である。体は毎日食べたもので作られるため、良い食事は良い体を作り、悪い食事は悪い体を作る。食生活を改善することで、体だけでなく、心の健康にも良い影響を与えるのだ。
第4章 腸の力:最高の体調は「腸」から始まる
人間の健康において、「腸」は思いのほか重要な役割を果たしている。私たちの免疫、感情、エネルギー、さらには意思決定や幸福感にまで、腸内環境が深く関わっているというのが、近年の研究の結論だ。かつて“消化器官”としてしか考えられていなかった腸が、いまや「第二の脳」とまで呼ばれるようになったのは、この驚くべき事実に起因する。
■腸内環境が全身に影響する
腸内には、約100兆個の腸内細菌が生息しており、その種類は1,000種類以上にも及ぶ。これらの細菌は、私たちの身体に有益な「善玉菌」、悪影響を及ぼす「悪玉菌」、そしてどちらにも属さない「日和見菌」に分けられる。
善玉菌が優勢な状態では、消化吸収がスムーズに行われ、免疫も強化され、精神の安定が保たれる。しかし、悪玉菌が増えて腸内環境が乱れると、炎症やアレルギー、肌荒れ、メンタル不調など、あらゆる形で体調に悪影響を及ぼす。
■「リーキーガット」が体調を崩す
腸が担うもうひとつの重要な役割は、“体内へのバリア”機能だ。腸管の壁は、栄養を吸収しつつ、異物や毒素の侵入を防ぐ“関所”である。しかし、腸内環境が悪化するとこのバリアが壊れ、「リーキーガット(漏れる腸)」という状態に陥る。
リーキーガットになると、未消化の食物や細菌の死骸、有害物質が体内に漏れ出し、免疫系がこれを「敵」と見なして過剰反応を起こす。これが慢性炎症や自己免疫疾患、うつ病などを引き起こす根本要因となる。
■腸と感情の深い関係
腸は単なる消化器官ではない。実は腸には1億個以上の神経細胞が存在し、脳とは独立して情報を処理する能力を持っている。これが腸を「第二の脳」と呼ぶ理由である。
さらに、腸内細菌は“幸福ホルモン”と呼ばれるセロトニンの95%以上を生産している。つまり、腸内環境が整っていれば気分が安定し、逆に乱れていれば不安やイライラ、うつ症状につながる。心の健康は、実は腸から始まっているのだ。
■腸内環境を整える具体的アプローチ
では、どのようにして腸内環境を整えればよいのか。著者は次のような方法を提案している。
1. 発酵食品の摂取
ヨーグルト、味噌、納豆、キムチなどの発酵食品は、善玉菌を直接摂取できる。これにより、腸内フローラ(細菌叢)のバランスを改善し、腸内のバリア機能を高める。
2. プレバイオティクス(善玉菌のエサ)の摂取
バナナ、玉ねぎ、アスパラガス、大豆、海藻類など、食物繊維やオリゴ糖を多く含む食品を摂ることで、善玉菌が活発に働くようになる。
3. 抗生物質の使用を最小限に
抗生物質は悪玉菌だけでなく善玉菌まで殺してしまう。必要以上の服用は腸内環境を崩しやすい。やむを得ず使用した後は、発酵食品やプレバイオティクスで善玉菌を補うことが大切。
4. 加工食品・人工甘味料の制限
加工食品に含まれる添加物や人工甘味料は、腸内細菌にダメージを与える。できるだけ自然な食材を選び、添加物の少ない食生活を心がけよう。
5. 食べすぎないこと
過食は腸に負担をかける。間食を減らし、「腹八分目」を習慣にすることで、腸内のリズムが整い、消化力が高まる。
■ストレスと腸の相関関係
ストレスは腸に直接ダメージを与える。過度なストレスがかかると、腸の血流が減少し、腸内細菌のバランスが崩れる。また、ストレスホルモン(コルチゾール)は腸壁を弱め、リーキーガットを助長する。
逆に、腸内環境が整えば、ストレス耐性が高まり、心身ともに安定する。つまり、腸を整えることが、メンタルケアにもつながるのだ。
■第4章のまとめ
腸は、体と心の健康を支える中枢である。腸内環境の乱れは、炎症や自己免疫疾患、精神的な不調を引き起こす根本原因となる。腸を整えることは、最高の体調を得るための土台づくりにほかならない。
腸が変われば、身体が変わる。身体が変われば、心が変わる。健康の再構築は、まず“腸”から始めよう。
第5章 文明の罠:現代社会と「合わない身体」
本章の核心は、「私たちの身体は現代社会に最適化されていない」という事実にある。人間の身体は、20万年にわたって狩猟採集生活を営んできた進化の産物であり、現代の都市型・テクノロジー社会にはまだ適応していないのだ。この「進化と環境のミスマッチ」が、体調不良や慢性疾患、メンタルの不安定さなど、現代人特有の不調を生み出している。
私たちは、まさに「文明の罠」にかかっている。
■人間は「進化の速度」に追いつけない
人類の歴史を振り返ると、農耕社会が始まったのが約1万年前、産業革命が起きたのがたった200年前、そしてインターネットやスマートフォンが普及したのはわずか数十年という短期間の出来事だ。
しかし、人間の身体の進化はこのスピードについていけていない。私たちの遺伝子の99.9%は、いまだに狩猟採集時代のままだといわれている。つまり、原始時代の環境に最適化された身体で、テクノロジーとストレスに満ちた現代社会を生きているのが、私たちの姿なのだ。
■文明病とは何か?
文明病とは、近代以降に急増した病気や不調の総称である。
たとえば以下のような症状や疾患がそれにあたる:
生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)
心疾患・脳血管疾患
うつ病や不安障害
自己免疫疾患
慢性疲労・不眠・肌荒れ・肥満
これらはすべて、自然な環境からかけ離れた生活習慣──人工的な光、運動不足、加工食品、情報過多、孤独──などにより、身体のバランスが崩れて起きる「時代の病」である。
■光と時間感覚のゆがみ
現代人の多くは、日中はオフィスで蛍光灯の下に閉じ込められ、夜になるとスマホやパソコンのブルーライトを浴びている。これにより体内時計(サーカディアンリズム)が乱れ、睡眠障害やホルモンバランスの崩壊が引き起こされる。
本来、人間は太陽の動きとともに活動し、日が沈んだら休むという生活を送っていた。自然光を浴びること、日中に活動すること、夜は暗くして眠ることが、心身の調律には不可欠なのだ。
■情報とストレスの洪水
かつての狩猟採集生活では、1日に接する情報量は極めて限られていた。対して現代人は、スマホの通知、SNSの投稿、ニュースの見出し、メールの着信など、1日で5,000以上の情報刺激を受け取っているとも言われる。
この情報過多によって、脳と神経系は常に興奮状態に置かれ、交感神経が優位になる。結果として、慢性的なストレス状態が続き、心身の回復機能が低下していく。
■孤独と運動不足という二重苦
人間は本来、家族や部族単位で行動し、日常的に会話や協力を通じて社会的なつながりを持っていた。だが現代社会では、「孤独」が常態化している。社会的な孤立は、喫煙や飲酒と同等の健康リスクをもたらすという研究もある。
さらに、狩猟採集時代は1日10km以上を歩き、頻繁に走ったり登ったりすることで、身体全体が活発に動いていた。今やデスクワークが中心となり、1日1,000歩も歩かない人が増えている。この運動不足が、筋力低下や代謝不良を引き起こし、体調不良へとつながる。
■「原始の生活」に戻すことが体調改善の鍵
本書では、こうした「文明病」を克服するためのアプローチとして、「進化に沿った生活習慣」を提案している。
自然光を浴びる
朝の散歩や昼間の外出で太陽光を取り入れることで、体内時計が整う。
スクリーン時間を減らす
夜間はスマホやパソコンの使用を控え、ブルーライトをカットする。
毎日歩く・体を動かす
階段の利用、立ち仕事の導入、こまめなストレッチなど、日常に「狩猟的運動」を戻す。
人と会う・話す
孤独を避けるために、家族や友人、コミュニティとのつながりを大切にする。
情報を減らす
SNS断ち、通知のオフ、ニュースのフィルタリングなどで情報の質と量を見直す。
■第5章のまとめ
人間の体は、20万年前の環境に最適化されている。テクノロジーに囲まれ、時間に追われ、孤独と加工食品に溺れる現代社会は、まさに「合わない環境」である。このミスマッチが、すべての不調の出発点となっている。
体調を改善するには、まず「文明の罠」に気づくこと。そして、ほんの少しずつでも“原始”に立ち返る生活習慣を取り戻すこと。身体の進化と環境を再び一致させることこそが、「最高の体調」への道なのである。
第6章 進化の叡智を日常に:身体と心を整える“本能的”な習慣づくり
本章では、これまで述べられてきた「身体は進化に適応した構造を持っており、現代社会はその進化と大きくずれている」という事実に基づき、「どうすれば本能に逆らわず、体調を最適化できるのか」を徹底的に具体化する。
文明と本能のギャップを埋める唯一の方法――それは、「狩猟採集民としての身体設計図」に沿った日常習慣を意識的に組み込むことである。以下、その柱となる生活習慣を見ていこう。
■1. 光を味方につける:「太陽のリズム」に従う
人間の身体は太陽の動きに同調して進化してきた。にもかかわらず、現代の生活は夜更かしや光害によって昼夜の感覚を失わせている。
朝日を浴びる:起床直後に10〜15分ほど自然光を浴びることで、体内時計がリセットされ、メラトニンとセロトニンの分泌が正常化する。
夜は光を避ける:就寝前2時間は、スマホやパソコンのブルーライトを避け、間接照明で過ごすのが理想。これにより睡眠の質が飛躍的に向上する。
■2. 腸に優しく生きる:「第二の脳」のメンテナンス
腸は体調だけでなく精神の安定にも深く関わっている。「腸が汚れると、脳が乱れる」と考えるべきだ。
発酵食品を毎日摂る:納豆、味噌、ヨーグルトなどをルーティン化。
プレバイオティクス(腸内細菌のエサ)を豊富に摂取:食物繊維、オリゴ糖、海藻など。
食事を抜きすぎない/食べ過ぎない:過度な断食やジャンクフードは腸にストレスを与える。
添加物の少ない食生活:腸内環境を長期的に整えるには、「口にするものの質」が最重要となる。
■3. 動きとともに生きる:「本能が求める運動」を再起動せよ
人間は1日に何万歩も移動し、木に登り、獲物を追っていた種である。現代のデスクワーク中心の生活では、その本能は眠ったままだ。
歩く:まずは1日5,000〜7,000歩を目安に。散歩、通勤、買い物でも良い。
“狩猟型”の動き:スクワット、腕立て、ジャンプなど「多関節運動」はホルモンバランスを整える効果がある。
マイクロワークアウト:1回2〜3分でも、1日5回行えば十分に代謝を刺激できる。
■4. 孤独を避け、つながりを持つ:「社会的哺乳類」としての原点に帰る
進化の過程で人間は常に群れの中で生活し、協力や共感を通じて心身の安定を保ってきた。孤独はその本能に逆らう行為であり、慢性炎症の引き金となる。
SNSの「数」より「質」:オンラインよりもリアルな交流の方が圧倒的に健康に寄与する。
■5. 情報を絞る:「脳の許容量」を守る知的ミニマリズム
現代社会は「情報過多」の時代。だが、脳の処理能力には限界があり、過剰な情報は集中力を奪い、慢性的なストレスを引き起こす。
情報を「減らす」ことが、思考の余白と心の余裕を生み出す。
■6. ストレスとの付き合い方:「戦う」ではなく「なだめる」
ストレスを完全に排除することはできない。しかし、向き合い方を変えることで、その影響を劇的に下げることができる。
人間は「ストレスを認知できる存在」であるがゆえに、それをやわらげる知恵を持っている。
■第6章のまとめ
現代社会は、あまりにも「非・進化的」な環境で溢れている。だが、私たちは無力ではない。意識的に本能に沿った生活習慣を取り戻すことで、進化と文明のギャップを埋め、「最高の体調」に近づくことができる。
・自然に沿って眠り
・腸に優しく食べ
・動き、笑い、人と関わる
それこそが、人間本来の“仕様”に沿ったライフスタイルであり、「進化医学」が教える最善の健康戦略なのだ。
第7章 炎症という静かな火種:現代人の「不調の根本原因」を探る
この章では、現代人の体調不良における最重要キーワードとして「慢性炎症」が取り上げられる。著者は、疲れやすさ・だるさ・不安感・集中力の低下・肥満・病気の引き金といった現代的な不調の多くが、「身体の内側で静かに続く炎症」によって引き起こされていると指摘する。
炎症は、目に見えない。だが確実に体を蝕む。しかも、長期的に続けば、がん・動脈硬化・認知症・うつ病など、命に関わる病気の土台ともなる。
つまり、「最高の体調」を実現するためには、この“静かな火種”を制御することが必要不可欠なのだ。
■炎症とは何か?
炎症とは、本来「免疫の正常な働き」の一部である。例えば、風邪を引いたときに熱が出るのは、ウイルスと戦うための自然な反応であり、体を守る防衛システムの表れだ。
問題は、「必要のないときに炎症が起き続ける」こと。これが慢性炎症である。
急性炎症:ケガや病気に対して一時的に免疫が活性化する → 身体を守る正常反応
慢性炎症:明確な敵がいないのに、低レベルで免疫が働き続ける → 身体を蝕む有害反応
この慢性炎症は、外見上ほとんど症状がないため見過ごされやすい。だが、それこそが不調の原因であり、「健康だけどなんとなく不調」という状態を生む元凶でもある。
■なぜ炎症が慢性化するのか?
慢性炎症の背景には、現代社会における以下のような要素がある。
1. 精神的ストレス
ストレスは交感神経を活性化させ、免疫系を刺激し、炎症性サイトカインを放出する。これが全身の炎症を慢性的に引き起こす。
2. 睡眠不足
睡眠中に行われる炎症の鎮静化プロセスが不十分になるため、免疫反応が過剰に残る。
3. 加工食品
トランス脂肪酸、過剰な糖分、化学添加物などは腸内環境を悪化させ、リーキーガット(腸の透過性の異常)を招く。それにより毒素が体内に入り炎症を引き起こす。
4. 運動不足
適度な運動は炎症を抑える効果があるが、座りっぱなしや活動不足が続くと、炎症性物質が蓄積しやすくなる。
5. 孤独と社会的孤立
社会的なつながりが少ないことは慢性炎症と直結している。人とのつながりが免疫バランスを整える要因になるためだ。
■「炎症レベル」を測るバロメーターとは?
慢性炎症は可視化されにくいが、いくつかの体感的サインや医学的指標によって把握できる。
朝起きても疲れが取れない
常にだるい・集中できない
風邪を引きやすい
お腹の調子が悪い
CRP(C反応性タンパク)の血中濃度が高い(血液検査で確認可能)
これらが複数当てはまる場合、慢性炎症の可能性を疑うべきである。
■慢性炎症を鎮める7つの具体策
著者は、炎症の鎮静には「薬」ではなく「生活の再設計」が効果的であると述べている。以下は実践的な対策である。
1. 腸内環境の整備
善玉菌を育てる食事(食物繊維、発酵食品)と、悪玉菌の餌となる食品(加工肉、精製糖)の排除。
2. 自然光と睡眠のリズムを整える
体内時計の乱れが免疫バランスを崩すため、毎朝の散歩、就寝前のデジタル断ちが有効。
3. 呼吸とリラックスの導入
深呼吸や瞑想は、交感神経の暴走を抑え、炎症を鎮める副交感神経の働きを促す。
4. 抗炎症作用のある食品を摂る
緑茶、ウコン、しょうが、青魚などは自然の抗炎症成分を含む。
5. 適度な運動を続ける
有酸素運動と軽い筋トレの組み合わせが効果的。週に3〜4回、1回30分を目安に。
6. 他者との関わりを持つ
定期的に人と会い、会話し、笑い合う時間が自然治癒力と免疫調整を助ける。
7. 情報とストレスのミニマル化
ニュースやSNSの摂取量をコントロールし、安心できる環境を整える。
■第7章のまとめ
体調がすぐれない、やる気が出ない、常に疲れている――そう感じるあなたの身体では、おそらく「見えない炎」が静かに燃え続けている。
それが慢性炎症だ。
この火種を鎮めることが、「本当の意味での健康」へ向かう最短距離である。薬に頼る前に、まずは自分の生活習慣を見直すこと。光、睡眠、腸、食事、人間関係、情報量――その一つひとつが、身体の内なる火を消す鍵となる。
“健康とは、静けさである”――
この言葉こそが、著者の伝えたいメッセージの核心だ。
第8章 環境がすべてを変える:「外側」から人生を再設計せよ
「人間は環境の産物である」――このシンプルな命題こそが、進化医学と予防科学の本質を貫く洞察だ。どれだけ意志が強くても、どれほど健康に対する知識があっても、日常の「環境設計」が悪ければ、私たちは元の生活習慣に引き戻されてしまう。だからこそ著者は、本章で強調する。
健康をつくるのは、努力ではなく、環境である。
■「環境」があなたの行動と体調を支配している
私たちの脳は、日々の意思決定のほとんどを「無意識」に行っている。つまり、私たちの食事、運動、睡眠、ストレスへの反応といったすべては、「環境によって誘導された自動行動」だと言っても過言ではない。
・夜中についスマホを見てしまうのは、ベッドサイドにスマホがあるから。
・毎日コンビニでジャンクフードを買ってしまうのは、職場の近くにコンビニがあるから。
・運動が続かないのは、手間がかかる場所にジムがあるから。
つまり、意思の強さよりも、どんな環境に自分を置いているかのほうが、ずっと影響力が大きいのである。
■進化に合った「自然な環境」を再現する
著者が本章で提案するのは、文明社会にいながら、できるかぎり人類の進化的適応に沿った環境を再構成することである。
以下は、現代人が陥りやすい「不健康な環境」から脱却し、「自然と健康になれる環境」に変えていくための戦略だ。
■1. 視界から「悪習慣のトリガー」を取り除く
行動の8割は「視覚的刺激」によって始まる。
たとえば、冷蔵庫を開けたとき、目に入るチョコレートやジュースは、あなたの健康を一瞬で狂わせる。だからこそ、まずは目に入る範囲を変えること。
ジャンクフードを家に置かない
テレビの近くにスナック菓子を置かない
見える位置に運動グッズや水を配置する
使わないアプリはホーム画面から削除する
「目に入るものが変われば、習慣が変わる」。これが進化的な人間行動の真理である。
■2. 移動と運動を誘発する空間を設計する
私たちの祖先は一日数万歩を移動していた。その運動性こそが、ホルモンバランス・メンタル・免疫・腸内環境にまで影響を及ぼしていた。
だからこそ、現代でも「動くことが前提の環境」を作ることが重要だ。
通勤に「少し歩く区間」を意図的に入れる
椅子に座りっぱなしではなく、スタンディングデスクを導入
歩いていける距離に公園・スーパー・カフェなどを選ぶ
家の中でもストレッチしやすい空間を確保する
動きを誘発する「仕組み」が、日々の体調を左右する。
■3. ソーシャル環境が健康の質を決める
孤独は慢性炎症の最大要因であり、人とのつながりは最強の治癒力を持つ。つまり、「誰と一緒にいるか」「どんな言葉を浴びているか」は、食事や運動よりもはるかに強力な健康因子なのである。
感情をシェアできる友人と定期的に会う
否定的な人間関係からは意識的に距離をとる
オンラインの繋がりよりも、リアルな交流を大切に
笑い・共感・感謝が生まれる空間に身を置く
社会的環境は、内分泌系・神経系・免疫系の調整にも密接に関与している。
■4. 情報空間を整える:「脳の環境設計」
情報もまた“環境”である。毎日スマホで何を見て、どんな感情を持ったか――それが心身に及ぼす影響は非常に大きい。
著者はこの点において「情報の断捨離」を勧めている。
不安を煽るニュースは制限する
SNSは発信メイン、受信は最小限
メールや通知は時間を決めてチェック
デジタルよりアナログ(読書・手書き)に重きを置く
情報空間の「雑音」が減るほど、体と心は静けさを取り戻していく。
■5. 生活導線を「健康ファースト」に再設計する
著者は「環境デザインは、習慣デザインである」と言う。
つまり、健康になるのが自然な動線・動作を生活に埋め込むことで、意志に頼らず健康になれる。
水を飲む習慣 → ペットボトルを手の届く範囲に常設
筋トレの習慣 → ドアの前にダンベルや懸垂バーを設置
瞑想の習慣 → 座布団とタイマーを常に見える位置に置く
大切なのは「やる気」ではなく、「仕組み」である。
■第8章のまとめ:意志よりも、環境を変えよ
健康を決定づけるのは、「どんな環境に自分を置くか」である。
人間は意志で行動する存在ではない。環境によって思考し、動き、疲れ、悩む存在である。
だからこそ、最高の体調を得たいなら、自分の外側から変える必要がある。
空間を整え
人間関係を整え
情報を整え
動線を整え
この「環境のリデザイン」こそが、未来のあなたを変える。
努力よりも、戦略で。
意思よりも、設計で。
それが、進化にかなった健康の道である。
第9章 文明病という名の呪縛を断ち切る:「不自然」から「自然」へ戻る勇気
「なぜ私たちはこれほどまでに、疲れやすく、心が乱れ、病にかかりやすいのか?」
その問いの核心にあるのが、「文明病」という概念である。
著者・鈴木祐は、本章において、「文明の発展」がもたらした恩恵の裏で、いかに我々の健康が静かに蝕まれてきたかを徹底的に掘り下げる。そして、最高の体調を手に入れるためには、この文明病の呪縛から意識的に脱却することが必要であると断言する。
■文明病とは何か?──進化と現代のミスマッチ
人類の進化の歴史は約700万年。そのうちのほとんどを、我々は狩猟採集民として過ごしてきた。農耕や都市生活は、せいぜいここ1万年、スマートフォンが登場したのは、たったの20年前に過ぎない。
しかし、私たちの「身体」や「脳」は、未だに狩猟採集時代の環境に最適化されたまま。つまり、現代のライフスタイルと私たちの生物的設計図には、大きなギャップ(=ミスマッチ)があるのだ。
このミスマッチが引き起こす問題こそが「文明病」であり、以下のような状態がそれにあたる。
デジタル機器による情報過多 → 脳疲労・不眠・集中力の欠如
孤独や社会的孤立 → 炎症の亢進・うつ傾向
座りっぱなしの生活 → 筋力低下・代謝異常・認知機能の低下
加工食品への依存 → 腸内環境の悪化・慢性炎症
人工照明と体内時計の乱れ → 睡眠障害・免疫の低下
つまり、現代社会で普通に暮らしているだけで、「不健康の種」に囲まれているのが私たちの現状なのだ。
■「文明病」から抜け出すための3つの思考転換
この章では、文明病から脱却するために必要な「思考のアップデート」が紹介されている。
努力や根性ではない。大切なのは、考え方の“設計”を変えることだ。
1. 「自然」とは何かを再定義せよ
「自然=山や森」といったイメージに留まっていては、文明病を見抜けない。
ここで言う「自然」とは、人類の進化過程で最も長く適応してきた環境を指す。
それは例えば:
仲間と焚き火を囲む夜
太陽の光を浴びながら移動する日中
加工されていない生の食材を摂る習慣
単純で直感的な判断と行動が求められる生活
他者との深いつながりと共同体の感覚
これらは現代生活では希薄になってしまったが、我々の遺伝子はこうした「進化上の自然」に反応するように設計されている。だからこそ、「不自然な環境」が、体と心を壊してしまう。
2. 「便利」こそが健康の敵になり得る
現代文明は「不便の排除」によって進化してきた。
・エレベーター
・加工食品
・リモートワーク
・一括配送
・検索すれば出てくる情報の山
これらの便利さは、確かに「短期的」には快適である。しかしそれが、「動かない」「考えない」「繋がらない」ことにつながり、結果として「文明病」を加速させている。
著者は言う。
「あえて不便を取り入れることでしか、人は健康になれない時代に突入した」
つまり、あえて歩く・あえて噛む・あえて考える・あえて対話する――そうした「不便」が、健康を作る新しい武器となる。
3. 情報は「消費」から「選択」へ
現代人は1日に3万語以上の情報にさらされている。
この「情報過多」こそが、心と体に炎症を起こす最大要因だと著者は強調する。
SNSの通知
ニュースの見出し
メールの返信
いいね数の増減
私たちは「情報を浴びる側」ではなく、「情報を選ぶ側」に立たなければならない。
朝の1時間はスマホを見ない
夜の2時間前には画面をオフにする
読むもの・見るものを厳選する
ノイズの少ない環境を意図的に作る
こうした“情報の断食”が、精神の静けさと身体の安定をもたらす。
■第9章のまとめ:不自然な社会に抗うことこそが、最高の体調への第一歩
現代社会で健康を保つことは、ある意味で「逆流に抗って泳ぐ」ようなものだ。
しかし、私たちの本来の設計――すなわち進化の歴史に沿った生き方を意識することで、その逆流は少しずつ穏やかになる。
不自然な便利さを手放す
情報を選び、静けさを取り戻す
自分の遺伝子に合った環境に身を置く
それこそが、「文明病」から自らを救い出す最も確実な方法である。
著者は、文明のすべてを否定しているわけではない。
ただし、**「文明に支配されるのではなく、文明を使いこなす側に回れ」**と語る。
あなたが今いる世界は、あなたの体にとって適応可能な環境だろうか?
もし違うのなら、その環境こそを、今すぐ再構築すべきなのだ。
第10章 「最高の体調」を一生保つために:進化医学の知恵を日常へ
本章はこれまでの全章を総括し、どのようにして「最高の体調」を日常生活に定着させるかを解き明かす「実践編」である。
著者・鈴木祐は、ここで初めて明確に言い切る。
健康とは、運や体質ではない。
健康とは、「環境」と「習慣」の設計によって手に入るスキルである。
■「進化的に正しい生活」こそが体調の土台
本書全体を貫く軸は、「人類の進化史に合致した生活を意識すること」である。
人間の身体と心は、100万年以上をかけて「狩猟採集的生活」に適応してきた。
よって、現代のストレスフルな都市生活や加工食品、孤独、情報過多、運動不足といった環境は、体の設計思想と真っ向から衝突している。
第10章では、この「進化的正しさ」を基盤としながら、継続的に体調を整え続けるための4つの戦略が提示されている。
戦略①:ルールは「シンプル」に、でも「自動化」する
習慣を変えるとき、多くの人は「気合」と「意志力」に頼りすぎる。だが、意志力は非常に有限であり、日常の忙しさのなかでは簡単に消耗してしまう。
だからこそ重要なのは、**「決断のコストを減らし、行動を自動化する」**という戦略である。
夕食は毎日、同じ健康的メニューを2〜3種類用意しローテーション
朝起きたらすぐに水を一杯飲む(コップを枕元に置いておく)
曜日ごとに運動メニューを固定する(月曜はスクワット、火曜はウォーキング)
買い物リストをテンプレート化しておく(余計な誘惑を避ける)
「毎回考える」から失敗する。仕組みによって自動化することで、意思を使わず健康が保てる。
戦略②:「完璧」ではなく「80点主義」で回す
人間は、完璧を目指すと失敗する。
無理な糖質制限
毎日ジムでハードトレーニング
サプリの過剰摂取
SNSでの他人の健康アピールとの比較
こういった極端な行動は、むしろ体調を崩し、継続性を失わせる。
著者は、**「80点主義」**という考え方を提唱する。
週5日だけしっかり食事管理する
疲れた日は運動をスキップしてOK
嗜好品は「楽しみ」として計画的に取り入れる
この「ゆるさ」こそが、体調維持の最大の武器になる。
完璧さを求めないこと。それが「一生続けられる健康習慣」の真髄である。
戦略③:「環境が9割」と心得て、設計に注力する
著者は繰り返し述べているが、環境の力は、意志力よりも圧倒的に強い。
目に入る場所に運動器具を置く
夜はスマホを手の届かない場所に置く
野菜を冷蔵庫の最前列に配置する
定期的に会う仲間に「健康志向」の人を持つ
これらはすべて、「環境の微調整」であり、心理的・身体的負荷を減らす設計だ。
無意識のうちに、健康行動が自然と選ばれるような環境を自ら構築することで、「体調の自動運転」が実現する。
戦略④:「回復」を優先するスケジューリング
現代人のスケジュールは、「消耗」が前提になっている。
仕事・育児・SNS・人間関係――どれもエネルギーを消耗させ、回復が後回しにされてしまう。
本来であれば、「回復ファースト」で予定を立てるべきだ。
睡眠の質を最大化するために、夜9時以降の予定は入れない
日曜は「完全休養日」として予定をゼロにする
15分の昼寝タイムを毎日確保する
月1回は「ひとり温泉」などの静かな場所で脳をリセットする
健康の秘訣は、常に「整えること」である。
回復こそがパフォーマンスを生み、体調の安定を支える柱になる。
■第10章まとめ:体調を「一時的」ではなく「一生」の資産にするために
体調を整えることは、「何か月か我慢すればいいこと」ではない。
それは一生にわたる「生き方」そのものであり、「資産」でもある。
そしてそのために必要なのは、
努力でも、我慢でもない。
思考の転換
環境の設計
習慣の自動化
回復への投資
完璧さの手放し
これらの「戦略的な行動設計」こそが、「最高の体調」を長期的に維持する鍵となる。
進化に学び、環境を変え、習慣を整える――
それが、私たちの人生を根本から変える、最も確実で、最も優しい方法である。
あとがき
『最高の体調』の旅はいかがでしたか?
本書を通じて伝えたかったのは、健康とは単なる医療や栄養の問題ではなく、「環境」「思考」「習慣」の設計の問題であるという事実です。
私たちの体と心は、太古の自然のなかで進化してきました。
そこに立ち返ることで、現代の不調はほとんどが改善できる可能性を秘めています。
完璧である必要はありません。
ほんの少し、「不自然」から距離を取り、「自然」に近づく。
その積み重ねが、あなたの体調を、人生を、大きく変えるのです。
本書がその第一歩となれたなら、これ以上の喜びはありません。
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