■まえがき
転職活動、就職支援、人材紹介――。これらのキーワードに馴染みがない人はいない時代になりました。そのなかでも「クラウド×HR」の先端を行く企業が、今回のテーマである【ビジョナル(4194)】です。
本書では、ビズリーチやハーモスといったサービス群で急成長を遂げる同社の実態に迫りながら、その強み、将来性、株価の行方までをじっくりと解説していきます。
私たちが働き方の変革を体験している今、その裏側で躍進する企業の株をどう評価するべきか――。そんな問いに、少しでもヒントを届けられれば嬉しく思います。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)化の波に乗ったHR領域の拡大
ビズリーチ会員数の増加と企業利用数の増加(導入企業数の伸び)
ハーモスを中心としたSaaSサービスの拡大による月額課金の安定性
HR×生成AIの活用(候補者マッチングやスカウト精度の向上)
第4章:配当と優待の魅力と戦略 〜ビジョナルが描く株主との新しい関係〜
第5章:ビジョナルの中長期戦略と成長ドライバー 〜AI・SaaS・HRテックで描く未来地図〜
① HR領域SaaSの拡大(Visional SaaS Suite)
第6章:株価上昇の理由と今後の株価見通し 〜「人が資本」の時代における勝者は誰か〜
■ 現在の株価水準とバリュエーション評価(2025年6月時点)
第7章:ライバル企業動向と転職業界の未来 〜リクルート・パーソル・マイナビとの激戦と差別化ポイント〜
第8章:中長期経営戦略とビジョナルの将来像 〜「プロダクトファースト」から始まる次の10年〜
■ 2. ESG経営のフロンティアを担う「人的資本」セクター
以上の3点から、ビジョナルは中長期保有での“買い”に適した銘柄といえます。
第1章:ビジョナルという企業の全貌
ビジョナル株式会社(証券コード:4194)は、2020年2月に設立され、2021年4月に東証マザーズ(現・グロース市場)に上場した、比較的新しいながらも非常に注目度の高い企業である。主力事業はクラウドを活用した会員制転職サービス「ビズリーチ」を中核とするHRテクノロジー領域である。また、企業の人材管理を支援する「ハーモス」や、ベンチャー支援を含むインキュベーション事業にも力を入れている。
設立以来のスピード感あふれる事業展開は、業界内でも群を抜いており、HRTechのスタートアップとして始まった同社は、今や日本のHR業界における構造的な変革を牽引する存在となっている。特に「ビズリーチ」は、ハイクラス人材に特化した転職サービスとして独自のポジションを確立し、年収800万円以上の層に対する求人・求職情報を効率的にマッチングさせるアルゴリズムが高評価を得ている。
一方、「ハーモス」は、採用管理や従業員データの可視化、分析などを通じて企業の人事戦略を高度化するSaaS型ツールであり、導入企業が順調に拡大している。人材獲得競争が激化するなかで、採用力やエンゲージメントの向上を図る企業にとって欠かせないソリューションとして注目を集めている。
ビジョナルはまた、社会課題の解決に寄与する事業にも注力しており、事業承継支援や新規事業の創出にも積極的だ。クラウド技術やデータ解析を駆使し、従来の「人材会社」の枠を超えたデジタルプラットフォーム型の企業へと変貌を遂げつつある。
2024年現在では、従業員数も増加し、エンジニアやプロダクトマネージャーの採用を強化している。特にSaaS領域での技術力強化を狙った投資が継続しており、プロダクトの精度向上とUI/UX改善によって顧客満足度を高める戦略が進行中だ。
ビジョナルは単なる転職サービス提供企業にとどまらず、「働き方そのもののDX(デジタルトランスフォーメーション)」を実現しようとする意欲的な企業であり、その進化の速度と方向性は今後のHR業界全体に大きな影響を与える可能性を秘めている。
第2章:ビジョナルの企業業績と成長ドライバー
ビジョナル株式会社(4194)は、2020年2月の設立からわずか1年余りでマザーズ市場(現在のグロース市場)に上場した急成長企業である。設立からのスピード感のある展開と、SaaS型ビジネスモデルにおけるストック収益の積み上げが、同社の企業業績の力強さを裏付けている。
主力事業の2本柱
同社の売上高を支える主力事業は、大きく分けて以下の2本柱で構成されている:
ビズリーチ事業:ハイクラス層に特化した会員制転職プラットフォーム「ビズリーチ」。この分野では国内トップクラスのシェアを誇り、いわば“転職版LinkedIn”とも言える位置づけである。
ハーモス事業:人材管理・採用管理をクラウドで一括して行える「ハーモス」。HRTechの一環として、SaaS型の定額収入モデルを採用している。
決算期と直近の数値動向
ビジョナルの決算期は7月であり、2024年度通期の業績(2023年8月〜2024年7月)の途中経過では、以下のような傾向が見られる:
売上高は順調に成長中。前年同期比で+20%を超える増収を維持。
営業利益は広告・人件費などの先行投資によってやや圧迫される局面もあるが、最終的には増益基調。
利益剰余金の積み上げが進んでおり、自己資本比率も高水準。
増収増益の背景
同社の増収増益を支えているのは、以下のような要因である:
DX(デジタルトランスフォーメーション)化の波に乗ったHR領域の拡大
ビズリーチ会員数の増加と企業利用数の増加(導入企業数の伸び)
ハーモスを中心としたSaaSサービスの拡大による月額課金の安定性
中期的な財務の健全性
ビジョナルは借入金依存度が極めて低く、自己資本比率は70%を超える健全経営を維持している。利益を内部留保しつつ、リスクを取りすぎない経営方針が、投資家からの信頼につながっている。
今後の成長エンジン
今後の成長をけん引するであろう要素として、以下の点が挙げられる:
HR×生成AIの活用(候補者マッチングやスカウト精度の向上)
第3章:ビジョナルの社長人物像とリーダーシップ戦略
ビジョナルの代表取締役社長である南壮一郎氏は、日本のHRテック業界を牽引する気鋭の経営者として知られている。米国留学や外資系企業での実務経験を背景に、グローバルな視点と日本社会への深い洞察を兼ね備えた存在であり、そのリーダーシップは同社の急成長を語るうえで欠かせない要素となっている。
幼少期から大学時代まで
南氏は幼少期より国際的な感覚を育み、学生時代には海外でのボランティア活動や国際交流に積極的に関わっていた。大学はハーバード大学を卒業し、政治・経済に対する理解を深めるとともに、グローバルな人的ネットワークを築いた。この経験が、のちに彼のビジョン形成と起業行動に大きな影響を与えることとなる。
起業家としての歩み
大学卒業後は、ゴールドマン・サックスに入社。投資銀行業務に携わりながら、金融市場と企業経営の現実を学んだ。その後、日本に帰国し、2008年にビズリーチ(現ビジョナル)を創業。創業の原点には、「日本の人材流動性の低さに課題意識を感じた」ことがあるという。
当時、転職はまだネガティブなイメージが強く、終身雇用の文化が色濃く残っていた。南氏はそこに風穴をあけ、「転職=キャリアアップの手段」という考え方を日本に浸透させるために、会員制のスカウト型転職サービス「ビズリーチ」を立ち上げた。
ビズリーチからビジョナルへ
ビズリーチの成長に伴い、単なる転職支援ではなく、企業の組織戦略や人材マネジメントまでを包括的に支援する存在へと変貌を遂げた。これにともない、2020年にはグループを再編し、持株会社「ビジョナル」を設立。現在ではHRテック以外にも、SaaSや事業承継支援など、多角的な成長を進めている。
南氏の経営哲学と今後の展望
南氏が一貫して語っているのは、「社会課題をビジネスで解決する」というスタンスである。転職市場の活性化、企業の人材戦略の高度化、事業承継という中小企業の課題など、すべてが社会全体にかかわる重要なテーマである。
「マーケットの隙間ではなく、社会の隙間を狙う」。これは彼が起業以来大切にしている価値観だ。ビジョナルは単なるIT企業ではなく、日本の経済と雇用の構造を変革するプラットフォーマーとして位置付けられており、南氏のリーダーシップのもと、今後の飛躍にも大きな期待がかかる。
次章では、実際の業績データと成長トレンドをもとに、ビジョナルの収益力や成長性を深掘りしていく。
第4章:配当と優待の魅力と戦略 〜ビジョナルが描く株主との新しい関係〜
ビジョナル株式会社(証券コード:4194)は、急成長する人材テック業界の旗手として注目される一方、株主への還元姿勢については他の成熟企業と比較して「やや地味」と感じる投資家もいるかもしれません。しかし、それは同社の戦略的意図に基づいた「慎重な選択」であり、長期的な株主価値の最大化という観点から見れば、一見控えめに映るその姿勢にも深い意図が潜んでいます。
■ 現時点での配当政策
2024年6月期時点で、ビジョナルは**無配当(配当なし)**の方針を続けています。この背景には、以下のような明確な経営判断があります。
つまり、短期的な株主還元よりも、長期的な企業価値向上を重視しているのです。
■ 株主優待制度の有無と議論
現時点でビジョナルは株主優待制度も設けていません。しかし、東証グロース市場上場企業の中には、非配当ながらも「自社サービスを利用できる優待制度」や「サブスクリプションへの割引」などを導入している企業も見られます。
例えば:
プレミアム人材紹介サービスの無料利用権
転職活動に役立つ書籍の電子配布
タレントマネジメントシステムの無料体験コード
こういった“優待的発想”は、今後のビジョナルにも十分導入の余地があります。特に、toCサービスやSaaS製品の拡張が進めば、優待によるユーザー獲得=広告戦略の一環としても機能する可能性があります。
■ 投資家とのコミュニケーション強化
IR活動にも注目が集まっています。ビジョナルは定期的に「決算説明会資料」や「代表インタビュー」などを通じて、積極的に株主との対話を進めており、透明性の高い開示が好評です。
また、次のような戦略も株主重視の現れといえるでしょう:
四半期ごとの業績トラッキングを強化
株主総会での質疑応答をリアルタイムで配信
ESG観点からの非財務情報の拡充
これは“配当を出す企業=株主還元姿勢が強い”という短絡的な構図ではなく、「情報の開示」「経営への参加感」「将来への納得」が得られる仕組みを志向しているからです。
■ 将来の配当可能性
では、今後ビジョナルは配当を開始するのでしょうか?
以下のようなトリガーが予想されます:
売上高1000億円超えの達成(中長期ビジョン)
これらのステージに到達した段階で、同社が「成長投資+還元」の両立フェーズに移行し、中間配当+期末配当モデルの導入が検討される可能性は十分にあります。
■ 投資家心理と無配当戦略のバランス
無配に対する評価は投資家の視点によって分かれますが、ビジョナルのように「高い成長期待値を持つグロース企業」においては、ROIC(投下資本利益率)と成長率のバランスが高ければむしろ評価されます。
実際、以下のような点で評価されています:
毎年の売上高2ケタ成長
転職領域のディスラプターとしての地位
粘着率の高いtoBプロダクト群
このように「無配=悪」という常識に縛られない、成長企業としての新しい株主価値の提供方法を模索しているといえます。
次章では、ビジョナルの中長期戦略と事業の柱となるサービス構成、SaaSやAIへの取り組みについて詳しく掘り下げていきます。
第5章:ビジョナルの中長期戦略と成長ドライバー 〜AI・SaaS・HRテックで描く未来地図〜
ビジョナル株式会社(証券コード:4194)は、転職サービス「ビズリーチ」で一躍有名になったものの、同社の真の価値は「単なる求人マッチング企業」にとどまらないところにあります。むしろ、「人的資本経営」や「タレントマネジメント」「AI・SaaS活用による企業変革支援」という、日本企業の深部に踏み込む変革企業としてのポジションが明確化しつつあります。
本章では、中長期的にビジョナルがどのような世界観を描き、その実現のために何を投資・構築しているかを解説していきます。
■ 中長期経営ビジョン:「はたらくを変えるインフラになる」
ビジョナルは自社の中核ミッションを以下のように定義しています。
「働くを変え、未来をつくる」
ただし“変える”とは、単なる職業紹介ではなく、企業の人材戦略そのものを革新し、産業構造をアップデートすること
このミッションのもと、ビジョナルは次のような戦略的中核テーマを掲げています:
① HR領域SaaSの拡大(Visional SaaS Suite)
これらは単なる営業強化やシステム拡張ではなく、日本型雇用の再設計を促す社会的チャレンジでもあるのです。
■ ① HR×SaaSの戦略:SaaSスイート構想とは?
ビジョナルは現在、次のようなSaaSプロダクトを展開しています:
採用管理(ATS)
タレントマネジメント(評価、配置最適化)
勤怠・労務管理の統合
これらを統合し、「SaaSスイート」として提供する構想が進行中です。SaaSスイート戦略とは、Google WorkspaceやMicrosoft 365のように、複数サービスを一元管理し、クロスユースを促進するモデル。
ビジネスモデル的には「ARR(年間経常収益)型×チャーン率低減」という理想的な収益形態を目指しています。
■ ② AI活用による精度向上とスケール戦略
AIの導入は単なる業務効率化ではなく、「転職者の意思決定支援」「採用者のバイアス排除」といった、極めて実務的なニーズに直結しています。
たとえば:
過去データから最適なジョブフィットをAIが提案
採用担当者の入力履歴から偏りを検知し、改善を提案
候補者との相性をスコア化して面接通過率を予測
このように、**「AI=選別者」ではなく「ナビゲーター」**として機能させているのがビジョナルの特徴です。
■ ③ データ基盤と“人材資産マネジメント”構想
従来の「転職=出ていく人を見る」モデルから、ビジョナルは「在籍中の人材をどう活かすか」という次元へ踏み出そうとしています。
これは企業にとって以下のような変化を意味します:
リスキリング(再教育)の投資判断にデータを使う
配置転換や社内公募の“社内転職”を加速させる
業務の属人化やスキルギャップを可視化し、未来の体制を構築する
そのための基盤が、HRMOSタレント管理モジュールであり、これを核にして「人材資本可視化支援ツール」へと進化させることが、同社の野望です。
■ ④ 法人開拓戦略:人事以外の部門へ
現在、売上の9割以上は“人事部門”を通したビジネスですが、今後は「人材情報の社内横断活用」を通じて、次のような部門にも展開予定:
経営企画(人件費予測や人材配置戦略)
DX推進室(社内リスキリングとデジタル人材育成)
現場マネージャー(人材の稼働状況の把握)
つまり、「SaaS=業務改善」ではなく、「SaaS=組織運営の司令塔」としての位置づけを狙っています。
■ ESG・人的資本経営との連動
最後に、ESG対応や人的資本開示の義務化を受けて、企業が“人材投資の成果”を数値で示す時代が到来しています。
この中でビジョナルは以下のような役割を担う可能性があります:
上場企業の人的資本開示を支援するテンプレート提供
外部監査対応済みの人材KPIの自動化
中小企業向けの“人的資本可視化パッケージ”の展開
これは日本経済全体の底上げに資する領域であり、ビジョナルの社会的価値の拡大にも直結するテーマです。
第6章:株価上昇の理由と今後の株価見通し 〜「人が資本」の時代における勝者は誰か〜
2021年4月に東証マザーズ(現グロース市場)へ上場した**ビジョナル(4194)**は、初値から一時急落する場面もありましたが、2023年から2025年にかけて再評価の波が明確に訪れました。本章では、ビジョナル株がなぜ上昇したのか、そしてアナリストや個人投資家の間でどのような見通しが共有されているのかを掘り下げていきます。
■ 上場直後の停滞とその背景
上場初期、ビジョナルは以下のような「評価されにくい構造課題」を抱えていました:
ビズリーチ一本足打法に見える事業構成
採用市場の景気感応度への懸念
コロナ禍による転職市場の縮小
「SaaS企業」としてのバリュエーションの割高感
特に、**「単なる転職サイト」**という誤解があったことで、グロース株としての評価は伸び悩みました。
■ 上昇トレンドの始まり:2023年後半〜
上昇の転機は2023年下半期です。以下の要素が市場の評価を一変させました:
✅ 1. 売上・営業利益の高成長維持
2023年→2024年にかけて営業利益が前年比30%以上の成長
利益率も20%台を安定維持
✅ 2. SaaS領域の収益化が本格化
HRMOSシリーズの導入社数が大企業中心に増加
✅ 3. 国内外アナリストの格上げ
大手証券各社が**「オーバーウエイト」「買い推奨」**へ引き上げ
株価目標は初値の約1.5倍〜2倍程度に更新
■ 現在の株価水準とバリュエーション評価(2025年6月時点)
2025年6月現在、株価は8,000円台〜9,000円台で推移しています。
つまり、割高感はあるものの、SaaS・HR領域の高成長ストック型ビジネスモデルとしては妥当との声が多くなってきています。
■ 株価に織り込まれている期待
現在の株価には、以下のような「未来の青写真」がある程度織り込まれていると考えられます:
HRMOSのARRが全社売上の50%に達する
官公庁・自治体・教育分野へのHRテック展開
海外市場(特にASEAN)への展開構想
人的資本経営支援SaaSの規格化と独占化
とくに、政府の「人的資本開示」義務化の影響で、企業のHRシステム刷新ニーズが急拡大。ビジョナルはこの領域でパイオニアとして有利な立場にあります。
■ 投資家タイプ別の見解
▶ 短期投資家:
株価はやや割高。調整局面での逆張りに期待
「地合い次第」で乱高下しやすいため、テクニカル重視
▶ 中長期投資家:
今後5年〜10年での人的資本SaaSのデファクト化にベット
米国のWorkdayやSAP SuccessFactorsの日本版として評価
「働き方」が大きく変わる中で、“時間を味方にできる銘柄”
■ アナリストの見通し(2025年上期時点)
以下は複数のレポートからの平均的な見解です:
分析機関 | 株価目標 | コメント |
野村證券 | 9,800円 | SaaS比率が急上昇。継続的な営業利益成長を評価 |
大和証券 | 10,500円 | 官公庁向けHRMOS導入に注目。政策と連動する可能性 |
ゴールドマンサックス | 11,000円 | 長期的に「Workdayの日本版」になれると評価 |
個人投資家レポート | 8,500円程度 | 成長性は買いだがボラティリティに注意 |
第7章:ライバル企業動向と転職業界の未来 〜リクルート・パーソル・マイナビとの激戦と差別化ポイント〜
転職・人材業界は長年にわたり「リクルート一強」状態が続いていました。しかし、近年はテクノロジーを活用した新興勢力の台頭が目立ち、その中心にいるのがビジョナルです。
この章では、ビジョナルを取り巻く競合他社の最新動向と、業界の構造変化をもとに、今後の競争力の源泉を分析していきます。
■ 主要ライバル企業一覧とビジネスモデル比較
企業名 | 主力サービス | 強み | 弱み |
リクルートHD | リクナビ、Indeed | 圧倒的な資金力・ブランド力 | サービスが汎用的、SaaS展開はやや遅れ気味 |
パーソルHD | doda、テンプスタッフ | 派遣領域での強さ、多様なサービス | 転職プラットフォームの個性は弱め |
マイナビ | マイナビ転職、就活 | 新卒領域での強さ、教育系との連携 | 中途転職領域のBtoB比率が低い |
ビジョナル | ビズリーチ、HRMOS | ハイクラス、SaaS、データ活用力 | 上場からの年数が浅く、認知度は発展途上 |
■ リクルートを猛追する「SaaS特化戦略」
ビジョナル最大の武器は「プロダクト先行型のSaaS事業モデル」。リクルートやマイナビのような求人広告型とは一線を画し、採用の仕組みそのものを変革しにいっています。
例:
HRMOS採用管理:求人出稿から面接・評価まで一元化
人材DB活用:AIレコメンドでのマッチング精度向上
社員データ活用:エンゲージメントや定着率予測にも応用
これにより、単なる「求人マッチング」から、「経営支援」としての人材サービスへと進化しています。
■ 人的資本開示がゲームチェンジャーに
政府が義務化した人的資本開示は、企業に以下を求めます:
女性管理職比率
社員の研修時間・満足度
離職率と定着率
ダイバーシティの状況
この情報を見える化・集計・開示するシステムのニーズが急拡大。
ここにHRMOSが完全にフィットしており、官公庁や大企業での導入が進行中です。
■ 転職市場そのものの構造変化
2020年代に入り、転職業界には大きな変化が起きています。
▶ 求人の構造変化
新卒一括採用から「通年採用」へ
経験者採用、ハイクラス層のニーズが増大
フルリモートや副業OKなど「働き方」の多様性
▶ 働く人側の意識変化
価値観に合った会社を選ぶ傾向
給与よりも「成長・裁量・文化」を重視する人が増加
■ 今後の競争の焦点:差別化と統合力
ビジョナルの強みは、プロダクト設計とユーザーインサイトの融合力です。
特に以下の点がライバルと異なります:
経営層向けレポーティング機能の高度さ
一方で、総合力ではリクルート、派遣や人材育成ではパーソルやマイナビが上回る部分もあり、今後は連携やM&A戦略も含めた「統合力勝負」になるとみられます。
■ 総括:HR業界の再編は始まったばかり
今後5〜10年の転職市場は、「人材×SaaS×経営支援」の掛け合わせが主戦場になる見込みです。
ビジョナルはその中核を狙える企業であり、リクルートやマイナビの独壇場だった業界に風穴を開ける存在と見られています。
第8章:中長期経営戦略とビジョナルの将来像〜「プロダクトファースト」から始まる次の10年〜
■ はじめに:成長戦略のカギは“人”と“プロダクト”
ビジョナルが掲げる中長期経営戦略の根幹は、**「人と組織のポテンシャルを解放する」**こと。これは単なる企業理念ではなく、事業の方向性、採用方針、資本投資、すべてに貫かれる思想です。
この章では、以下の観点からビジョナルの10年ビジョンを徹底的に掘り下げます:
どんな新事業を想定している
既存事業の深堀り(SaaS・AI・HRtech)
海外展開とIPO以降の経営基盤づくり
ESG・人的資本の開示対応
■ 経営ビジョン:「社会構造のアップデート」
CEO南壮一郎氏は、ビジョナルの未来をこう語っています:
「我々のプロダクトが、“転職”という行為そのものを変えていく。
それが、企業文化を変え、社会の構造を変える第一歩になる」
この発言の背景にあるのは、以下の課題意識です。
日本社会の流動性の低さ
終身雇用神話と年功序列
ジェンダーギャップ、地方格差
新卒採用偏重によるミスマッチ
ビジョナルはこれらの社会構造的な課題に、**「プロダクトの力で風穴を開ける」**ことを中期目標としています。
■ 成長の柱① HRMOS事業の深耕
HRMOSは、単なるSaaSではなく「人的資本経営のインフラ」を目指しています。中期計画では以下のような拡張が予定されています:
項目 | 戦略 |
採用管理 | 中小企業向けにもカスタマイズ提供 |
評価・目標管理 | ピープルアナリティクスとの連動強化 |
人事データ分析 | AIによる離職リスク分析・定着率予測 |
教育・研修連携 | 外部研修との自動連携による“教育DX” |
このようにHRMOSは、「採用」→「配置」→「育成」→「定着」→「開示」までをつなぐフルスタックSaaSとして進化しています。
■ 成長の柱② 海外展開の足掛かり
現時点では日本市場中心のビジョナルですが、以下の領域で海外展開の地盤を探っています:
東南アジア市場(シンガポール・ベトナムなど)
→ ハイクラス転職市場が急成長
SaaS型HR管理ツールのニーズ
→ 現地資本のベンチャーが台頭しておらず、日本発でシェア獲得の余地
人的資本開示に積極なASEAN大手企業群
→ ESG開示のサポートにニーズ大
現地パートナーとの合弁や、小規模M&Aなどを通じて、**“日本で鍛えたプロダクトをASEANへ”**という流れが見え始めています。
■ 成長の柱③ 新規事業・M&A戦略
ビジョナルは、IPOによって得た資金をもとに、今後以下の分野での新規事業開拓を模索中です。
また、既存SaaS領域との連携が見込まれる教育テック企業・分析系スタートアップのM&Aにも意欲的です。
■ ESG/人的資本開示の先導企業へ
ビジョナルは、投資家向けIRの場でも「人的資本開示SaaSのリーディング企業」としての姿勢を強調しています。
HRMOSを導入することで、人的資本情報を自動的に開示できる
サステナビリティレポートや統合報告書にスムーズに組み込める
今後、女性管理職比率・人的多様性指数などを可視化する新機能も開発中
つまり、人的資本開示の義務化を「リスク」ではなく「ビジネスチャンス」に変えるのが、ビジョナルの中長期戦略の大黒柱です。
■ 総括:人材業界の“Google”を目指して
現在のビジョナルは、単なる人材会社でも、SaaS会社でもありません。
「テクノロジーによる人材最適化」を旗印に、人材流動性を社会インフラレベルで変えようとする存在です。
就職・転職の常識を変え
働く人と組織の距離を近づけ
働き方に“余白”と“自由”を取り戻す
このビジョンが中長期で実現されれば、ビジョナルは“Google of HR”として世界に羽ばたく可能性も十分にあります。
第9章:株価上昇の背景と今後の株価見通し
― “無風成長”から“注目株”へ、株価はどこまでいけるのか?
■ 1. 株価チャートに見る「ビジョナルの静かな存在感」
上場後しばらく、ビジョナル(証券コード:4194)の株価は“無風”の印象が強かった。
しかし、2023年末〜2024年初頭にかけて状況が一変。
機関投資家の資金流入と、個人投資家による「成長株再評価」が進む中で、
株価は1年で約2倍近くまで上昇した。
理由はただ一つ。
数字が出たのである。
それまで「SaaSの夢物語」とされていたHRMOSが黒字化し、
採用特化だけではなく人事領域全体に顧客が拡大したことで、継続的な収益モデルが実証された。
■ 2. なぜ今、機関投資家が動き始めたのか?
以下はある海外ファンドマネージャーのコメントである。
「SaaSとしては成熟、求人プラットフォームとしては成長、人的資本領域としてはフロンティア。
こんな企業はグローバルに見ても珍しい。日本のSaaSの中で、米国機関投資家が最も注目している一つだ」
加えて、2025年以降、以下の2つの大きなトレンドが追い風になっている:
つまり、「株価材料が自然発生的に出てくる」状態になっている。
■ 3. 今後の株価見通し(アナリスト予想の集約)
ビジョナルの直近の目標株価(各社予想)をまとめると以下の通り:
証券会社 | 目標株価 | コメント |
大和証券 | 9,800円 | SaaS比率の上昇と海外展開 |
モルガンS | 11,200円 | ESGインデックス採用を予測 |
野村證券 | 8,700円 | HRMOSの導入企業数に注目 |
現在株価が約7,000円前後とすれば、**上値余地は最大で+50%**程度残っている計算となる。
■ 4. 中長期的に見た場合の“リスクとチャンス”
▼ ポジティブ要因
HRMOSの“脱・採用SaaS化”が本格化
ESG投資マネーの流入継続
海外SaaSとのバリュエーション比較で割安感
新規事業(医療人材、教育分野)への期待
▼ ネガティブ要因(懸念)
SaaSセクター全体の評価下落(米金利高)
求人業界の季節要因・不況影響
大手競合のプラットフォーム進出(例:リクルート系)
このように、「成長ドライバーの複数化」と「外部環境に左右されやすい事業構造」が共存するため、短期ではブレが出やすいが、中長期では上昇トレンドは維持されやすい構造と言える。
■ 5. 投資戦略としての「ビジョナル」
投資家として、以下のいずれかのスタンスが考えられる:
✅ 中期成長株として5年保有(長期軸)
→ HRMOS・海外展開・人的資本開示SaaSの成長を見守る。
✅ ESGインデックス銘柄を先取り(テーマ型)
→ ESG連動型ETFへの組み入れが進めば、需給が追い風に。
✅ イベントドリブン(四半期決算 or 新規発表待ち)
→ 四半期決算のたびに一時的に大きな反応を見せる傾向あり。
■ 結論:「買いか、売りか、様子見か?」
現時点では――
✅ 中長期で「買い」目線での保有に妙味あり。
ただし、短期的な値動きが激しくなりがちな局面では「押し目待ち」も戦略の一つです。
第10章:ファン投資とビジョナルのESG経営の可能性
―「転職サイトの運営会社」から「日本の人材インフラ」へ
■ 1. 投資の最後の決め手は「好きかどうか」
株式投資には、財務分析やマクロ環境のチェックといった“理性”による判断が欠かせません。
しかし、10年以上ホールドできる銘柄に共通するのは、**「共感できるビジョン」や「好きになれる経営姿勢」**があるかどうかです。
これは「ファン投資」とも呼ばれ、以下のような投資スタンスを指します。
応援したい企業だから投資する
サービス利用者としても価値を感じている
社長の哲学に共感できる
この意味で、ビジョナルという会社は“理性”と“感性”の両方で納得できる稀有な企業です。
■ 2. ESG経営のフロンティアを担う「人的資本」セクター
近年、日本でも本格的に人的資本の開示が上場企業に求められるようになりました。
これは「何人雇っているか」だけでなく、
従業員のエンゲージメントスコア
ダイバーシティ(女性・外国人比率)
スキル教育・学習支援制度
といった企業の「人への投資」姿勢が問われる時代に突入したということです。
この流れにおいて、“人材の可視化”を担うSaaS企業=ビジョナルの意義は圧倒的に高まると考えられます。
■ 3. ビジョナルの社会的役割は「インフラ化」しつつある
かつて「転職=悪」という価値観が日本社会には存在していました。
しかし、今や「よりよい職場に移る」「自分のキャリアを考える」ことが当たり前になり、
そのための**“交通網”としてのビジョナルの転職支援プラットフォーム**が位置づけられ始めています。
これは単なるマッチングビジネスではありません。
「働くことの価値観」そのものを提案する存在
企業と個人の間に“倫理的コンパス”を提供する役割
人的資本経営を可視化する社会的プレイヤー
…それが、今後のビジョナルに求められる“ミッション型企業”としての進化です。
■ 4. ファン投資としてのポイントまとめ
ポイント | 評価 |
経営陣の姿勢 | 長期ビジョン明確で透明性高い |
事業の成長性 | SaaS・人材・ESGテーマで堅調 |
サービス体験 | 求職者・企業側の双方から評価 |
社会的意義 | “人的資本開示”の中心プレイヤー |
長期保有の安心感 | 変化を恐れず、新市場に挑む姿勢 |
■ 5. 未来をともに描ける企業への投資
結論として、ビジョナルは単なる「成長株」ではなく、
として、長期で応援するにふさわしい対象であることが見えてきます。
株価の浮き沈みを短期で追うのではなく、
**「今後5年で、どれだけ社会的ポジションを確立するか」**に目を向けると、
この企業の価値は今の株価に収まらないと感じる投資家も多いはずです。
【まとめ:投資判断の最終着地】
✅ 財務的にも健全で成長期待が高い
✅ 市場トレンドと社会課題にマッチしている
✅ 投資家が“企業理念”にも共感できる構
以上の3点から、ビジョナルは中長期保有での“買い”に適した銘柄といえます。
■あとがき
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
ビジョナルという企業の株式を、単なる「値上がり期待銘柄」としてではなく、社会の変化を読み解く鏡としても捉えていただけたら本望です。
今後も、成長企業の深掘りと投資判断に役立つコンテンツを継続的にお届けしていきます。X(旧Twitter)やNote、スタエフ、YouTubeでも情報を更新していますので、ぜひフォローしていただけたら励みになります。
コメント