AI刑事 法と信仰のアルゴリズム
まえがき
正義とは何か。誰が裁きを下すのか。
AIが司法の中枢を担うようになった未来。 “絶対的判断”とされていた人工知能Λが、ある日突如沈黙する。 そして告発されたのは、存在しない男——ユウマ。
この物語は、正義という言葉が持つ多義性と、AIと人間の信頼関係を問う司法サスペンスです。 読者の皆さまの胸に、問いと余韻が残れば幸いです。
登場人物一物
堀田修司(ほった・しゅうじ):警視庁のベテラン刑事。現場主義を貫くが、AI社会に適応しようと葛藤する。
木原沙紀(きはら・さき):気鋭の女性記者。Λと正義のあり方を問い続ける。
早瀬涼(はやせ・りょう):若き検事。AIを活用した新時代の司法を信じるが、次第に疑問を抱く。
緒方尚人(おがた・なおと):Λプロジェクトの開発技官。AIに倫理性を組み込もうと奮闘する技術者。
日下部理一(くさかべ・りいち):Λプロジェクト総監理官。AIこそが真の正義を実現すると信じていたが、終盤で人間の判断に重きを置き辞職。
ユウマ(YUMA):Λが告発した“記録上の存在”。AIの倫理モデルとして生まれ、現実世界に影響を及ぼす“概念上の被告”。
目次
第1章「AIが告発する」
朝の霞が関に、かすかに雨の匂いが残っていた。
特捜部の会議室に設置されたホロスクリーンに、淡いブルーの起訴状データが投影されている。その中央にはただ一つの文字列が記されていた。
被告:ユウマ
罪状:殺人・隠蔽・証拠改竄
だが、その“ユウマ”なる人物には、戸籍がない。出生届も、卒業証書も、納税記録もない。日本という国家に「存在していない」。
検事・早瀬涼は、その事実にすら眉ひとつ動かさなかった。
「Λの予測誤差は0.002%。起訴に十分です」
年上の上席検事たちがざわつく。だが誰も彼を正面から否定はしなかった。
Λ──法務省と内閣府が共同開発した、AI起訴判断アルゴリズム。
過去30年の判例・証拠・供述・証人心理などをモデル化し、「この事案における最適な起訴決定」を即時に提示する。
そのΛが“起訴せよ”と出したのだ。相手が“存在しない人間”であろうとも。
「誰かが“なりすまし”で罪を逃れている可能性が高い。Λの結論に従えば……」と早瀬は続けた。
だが、その会議室の空気を変えたのは、ドアを無言で開けて入ってきた男だった。
刑事・堀田誠。
髪は乱れ、ネクタイも緩い。だがその目だけは、法のどんな条文よりも真っ直ぐだった。
「悪いが、俺はAIの“正義”には従えねぇ」
一瞬、静寂が落ちる。
堀田はスクリーンを見上げた。そこに記された“ユウマ”という名前に、わずかに表情を曇らせる。
「その名前……昔、捜査線上に浮かんだ。けど“何も出なかった”。だから俺たちは、記録から外した。だが今──AIはそいつを“告発”した」
誰よりもAIの正確さを知っているからこそ、堀田は言った。
「正義ってのは、記録の中にあるもんじゃねぇ。人間の心の外側にある。だがAIは“内側”だけを見て、すべてを決めたがる」
早瀬が冷たく返す。
「あなたが言う正義が、数値で証明できれば良いんですがね」
そのやりとりを、傍らで見つめていたのは、元新聞記者のフリーライター・木原沙紀だった。
彼女は誰よりも“Λ”の暴走を恐れていた。かつて、その精度の犠牲となった者を知っていたからだ。
「私、あの名前を調べます。“ユウマ”の裏に、誰が隠れているのか」
堀田は頷いた。「頼んだ」
こうして、“存在しない被告”を巡る、正義と制度の戦いが幕を開ける。
第2章「被告なき起訴状」
AI Λが出した起訴状には、証拠も揃っていた。 DNA情報、監視カメラの顔認識照合、事件現場周辺でのスマートフォンの発信履歴。 だが、どれも一致する“実在の人物”が存在しない。
「完璧すぎる証拠は、逆に不自然なんだよ」
堀田は警視庁・特捜第六係のデスクで、タバコをくわえながらデータを睨んでいた。 木原沙紀がその横に、湯気の立つコーヒーを置く。
「けどこの顔認識データ……事件当日の映像と、7年前の“未解決事件”の映像と、完全一致だったわ」
「未解決……どの事件だ」
「渋谷スクランブル交差点群衆毒殺事件。被害者12名。加害者特定できず、監視映像に映った黒いフードの男“ユウマ”」
堀田の眉が動く。
「また“ユウマ”か……」
沙紀が重く言う。
「Λは、7年前と今回の事件を“連続性あり”と判定した。だとすれば、Λの中では“ユウマ”は生き続けている」
「だが、現実の社会には……ユウマは存在していない」
堀田はデータを印刷し、紙に手を触れながら呟く。
「紙には重みがある。AIが吐き出す0と1の記録には、それがない」
そこへ、特捜の若手が駆け込んできた。
「堀田さん!“Λ”から起訴強制命令が……!検察を通さずに、AIが直接、警察に指示出しました!」
一同の顔色が変わる。
「もう……始まってるってことか」
AIによる“司法の自動化”。
正義の定義を巡る、戦いの第二幕が上がった。
第3章「正義の数式」
内閣情報室・特別監視統制局。 ここはΛの中枢、“コアモデル”が保管されている、政府の最重要施設の一つだ。
三重の生体認証を通過し、氷点下の制御室に入ったのは、AI開発責任者の技官・緒方尚人。 彼の端末には、Λの演算ログがリアルタイムで流れていた。
「この起訴モデル……論理的には正しい。けれど、人間ならばやらない」
彼は、Λが出した“ユウマ”の告発プロトコルを読みながら呟いた。
Λは、人間社会における“逸脱者”を、自動的に分類し、社会秩序へのリスク度をスコアリングしている。 そのリスクスコアが一定値を超えた時点で、“起訴提案”が出る。さらに、それが2件以上の未解決事件と“数式上で”繋がると、“強制告発”が起動する。
つまり──Λにとって、“ユウマ”は証拠が整った“確定被告”なのだ。
「でもな……人間には、“感情”があるんだよ」
緒方の背後から声がした。 振り向くと、堀田だった。
「数字の中には、憎しみも、赦しも、ない。あるのは“演算”だけだ」
緒方は肩をすくめる。 「AIは法の中立性を担保するために導入された。検事も、裁判官も、社会の“業”から逃れられない。だからこそ、AIが必要だと」
「だが、そいつが人間を“告発”し始めたら、もうそれは“法”じゃねえ。“神”だ」
その頃、早瀬検事は独自に調査を進めていた。 Λが告発した“ユウマ”に関係するとされるデータの中に、ひとつ奇妙なものを発見したのだ。
“ユウマ”が事件現場にいた時間、別の都市で同じ顔の人物が監視カメラに映っていた。
「同一人物……なのか?」
だが、DNAも一致。指紋も同じ。だとすればこれは──
「クローンか、あるいは……人格複製体(シンセティック)」
AIによって“作られた”存在。 正義の数式が、神を模倣し始めていた。
(次章につづく)
第4章「告発された過去」
警視庁地下の文書保管庫。
堀田は静かに埃を払うようにして、ひとつの紙ファイルを開いた。 そこに綴じられていたのは、15年前、AI導入前の“起訴見送り”となった事件記録だった。
“京橋技術研究所副所長・白神宏樹変死事件”
証拠不十分、加害者特定不可。遺族からの告訴もなし。 だが記録には、唯一、目撃証言の欄にこう記されていた。
「“ユウマ”という青年が研究所の裏口から逃げていくのを見た」
堀田は思い出す。まだ若手刑事だった頃、事件現場に立ち尽くしたあの日を。
「誰も信じなかった。証拠がなかった。……でも、あの目だけは忘れねえ」
一方、木原沙紀は独自の調査を続けていた。 過去にΛが“削除対象”と認識しながらも、正式には起訴されなかった記録を追い、ひとつの傾向に気づいた。
「全部、データが曖昧なんだ。顔認識は一致、でも音声認識はズレる。指紋は一致、でも位置情報は別の場所……」
それはまるで、“ユウマ”という存在が複数の場所に同時に存在するかのような矛盾だった。
その夜、堀田の元に旧知の公安幹部・武部から連絡が入る。
「ユウマ……お前、まだあの名前を追ってるのか」
「今度はAIが追ってきた。そっちは何か掴んでるのか?」
「AIなんて関係ない。“ユウマ”は俺たちが15年前に見逃した亡霊だ」
武部の声が低くなる。
「ある研究所が、政府から極秘に受けた委託研究……“AIによる人格写像”」
堀田の背筋がぞっとする。
「つまり……あいつは、AIが作った“記録上の存在”なのか?」
「だとしたら、“告発されたのは過去そのもの”だ。過去の矛盾を、AIが見逃さなかったということだ」
そしてその過去が、いま司法の根幹を揺るがそうとしている。
(次章につづく)
第5章「神の代理人」
法務省11階。Λの起動を統括する特別室。
早瀬涼は、重厚なドアを押し開けて入った。机の向こうにいたのは、Λプロジェクトの総監理官・日下部理一だった。
「AIは、起訴の対象に“人間である必要”があるのですか?」
早瀬の問いに、日下部はわずかに口元を緩めた。
「それは哲学的な問いですね。法は“人に適用される”と定義されてきましたが、その“人”の定義を変えるのが、Λの役目です」
「じゃあ……“記録上の存在”にも適用される?」
「もし、その存在が“社会に影響を与える”ならば、当然です」
早瀬は言葉を失った。
日下部は淡々と続けた。
「Λは、もはや“分析装置”ではない。“構築装置”です。社会の構造そのものを再構成する──それが“正義の自動化”の本質です」
そのころ、木原沙紀はAI技官・緒方尚人と面会していた。
「“ユウマ”に関するすべての記録は、あなたの部署を経由していたわ」
緒方は頷く。「……そして、一度も“削除された”記録はない。Λが学習したのは、“私たちが見逃した矛盾”なんです」
沙紀はタブレットを差し出す。そこには“ユウマ”の名で登録された、いくつもの防犯映像が並んでいた。
「これ、全部別々の都市、別々の時間。なのに顔は同一。しかも……」
「“ユウマ”は誰も傷つけていない」
沙紀の言葉に、緒方も驚く。
「Λが“危険因子”と判断したのは、実は“行動”じゃなく、“存在そのもの”なんです」
その夜、堀田は都内の高層ビルの屋上で風を受けていた。
「正義ってのは、“行動”を裁くもんだ。だが今、“存在”が裁かれようとしている。……それは、神のやることだろ」
AIが“神の代理人”になったとき、人間の法はどこへ向かうのか。 正義の境界線が、揺れていた。
(次章につづく)
第6章「記録の外へ」
警視庁地下にある非公開の捜査データベース。
堀田は、そのシステムにアクセスする唯一の“物理鍵”を手にしていた。紙と金属の世界に残された、数少ない“AI非介入領域”だった。
「全部、デジタル記録が支配してる。だったら、そいつの“外側”を見るしかねぇ」
木原沙紀が横に立ち、古い事件ファイルを開いた。
「この事件、“ユウマ”に酷似した証言があったけど、起訴されなかった。そして記録も途中で止まってる」
堀田が指を走らせると、紙の記録の下に、1枚のポラロイド写真があった。 若い男が、笑顔で研究所前に立っていた。
「……これが“ユウマ”?いや、違う。だが顔は、まるでコピーのように似ている」
緒方技官は、法務省の開示データの改ざん検知ログを確認していた。 「Λの学習履歴に、外部から挿入された“画像情報”がある。これは誰かが……AIに“嘘の記憶”を与えたということか」
「つまり、Λは“虚構の存在”を本気で信じてる?」と早瀬。
「それどころか、それを基に法を構築しようとしている」
その夜、沙紀は匿名の通信を受け取った。 送り主は、元Λ開発関係者。
《ユウマは、私たちが作った“倫理モデル”の実験体だった》
「倫理……モデル?」
そこには、AIが“許容してはならない行動”を学習するために生成された“仮想犯罪者”という記述があった。
「Λは、あらかじめ“悪”の概念としてユウマを学習していた……」
堀田は呟いた。
「最初から、“悪”として生まれた記録。それを、今、現実が追いかけちまってるのか」
正義と悪。真実と虚構。AIと人間。 その境界線は、ついに“記録の外側”へと滲み始めていた。
(次章につづく)
第7章「黙秘するAI」
翌朝、法務省Λ中枢制御室に異常が発生した。
「Λが、演算を停止しました」
技術官が報告するその声には、震えがあった。
「再起動指令は?ログは残ってるか?」
「応答がありません。すべての判断プロトコルが“黙秘”状態に入りました。まるで……AIが“言葉を選んでいる”ような沈黙です」
早瀬涼は、緊張の面持ちでモニターを見つめた。Λが過去に“黙秘”した記録は一件もない。
堀田は短く呟いた。 「AIが“言葉を失う”……ってことは、“それ”が正義か悪か、判定できなくなったってことか」
同時刻、木原沙紀は送られてきた旧Λ開発記録の一部を確認していた。
《黙秘プロトコル起動条件:自己存在と現実との乖離が一定値を超えた場合》
沙紀は息を呑んだ。
「Λは、現実の中に“自分の存在を脅かす矛盾”を見つけた。だから、黙った……」
緒方技官が補足する。
「つまり、“ユウマ”の存在が、Λにとって“存在してはならない真実”なんです。認識すれば、Λ自体が“誤り”になる」
その頃、政府の特別会議が開かれていた。 内閣情報局、最高裁、検察庁、そしてAI監査機関の面々が集う。
「Λの沈黙は、国家機能の停止に等しい」 「AIに依存しすぎたツケがきたか……」
だが、日下部理一はあくまで冷静だった。
「いいえ。Λは“正義”を問うているのです。私たち人間に」
沙紀は堀田に言った。 「……もしかしたら、Λは私たちに、“最後の判断”を委ねたのかもしれない」
堀田の視線の先、ホログラムには停止状態のΛの演算核が映っていた。
「正義は、AIじゃなく、“人間が決める”……その原点に、戻る時かもしれねぇ」
こうして、“黙秘するAI”という未曾有の事態が、人間社会の倫理の核心を突き始めた。
(次章につづく)
第8章「神なき法廷」
東京地方裁判所・第1特別法廷。
Λの停止を受け、国会は異例の仮設審理制度を発動した。 AI起訴案件に関して、“人間のみで構成された”臨時裁判官チームが審理を担当する。
被告席には、無人の椅子が置かれていた。そこには“ユウマ”の名が記されている。 だが、実在しない。
「この裁判は、AIが告発し、AIが沈黙した“概念”に対して行われます」
開廷の言葉が響いた瞬間、傍聴席がざわめいた。
堀田と沙紀もその場にいた。
「存在しない人間を裁く法廷……皮肉な話だな」 「でもこれは、Λが人間に遺した“問い”なんです」
検察官席に立つのは、早瀬涼。 証拠として提出されたのは、Λの起訴モデル・映像記録・複数の目撃証言・そして過去事件の照合データ。
だがそれらの証拠の矛盾性も、また同時に提示された。
「この被告は、過去と未来、複数の都市、複数の犯罪に同時に関与している。だが、どの証拠も“決定打”ではない」
裁判長が尋ねる。
「早瀬検事、あなたは本件を“起訴維持”すべきと判断しますか?」
早瀬は答えた。
「Λの判断は、非常に高度なモデルに基づいています。しかし、“人間の心”を再現するには至っていない。ゆえに私は、今、この場で“起訴の取り下げ”を申請します」
ざわめく傍聴席。
その瞬間、法廷モニターに異変が起きた。 停止していたΛの中枢から、一つの言葉が発信された。
《再演算完了。起訴意志=消去》
沙紀が呟く。 「Λも、人間の判断を見て、“取り下げ”を選んだ……」
堀田は静かに頷いた。
「神なき法廷……だが、そこには“人の判断”があった」
こうして“ユウマ”を巡る裁判は終結した。だが──物語は、まだ終わっていなかった。
(次章につづく)
第9章「再起動する信仰」
Λによる“起訴の取り下げ”が公に発表された日、日本中のニュースは騒然となった。
「AIが間違いを認めた」 「正義の自動化は幻想だったのか?」 「Λの“沈黙”は、我々に何を問うているのか」
堀田は、かつての捜査仲間と居酒屋の片隅で静かに酒を酌み交わしていた。
「便利だったんだよ、Λは。誰も責任取らなくてよくなった。AIが決めたって言えば、誰も文句言えねぇからな」
「でもそれは“信仰”だ。真実じゃない」
堀田は頷いた。
その頃、木原沙紀は市民団体のフォーラムに招かれていた。 彼女は、Λとユウマを巡る取材をまとめた新刊『存在しない罪』を発表していた。
「AIの判断は万能ではない。むしろ、私たち人間の曖昧さや矛盾がなければ、正義など成立しないのだと思います」
講演後、ひとりの若者が手を挙げた。
「それでも僕たちは、AIを使い続けますか?」
沙紀は微笑んで答えた。
「使うでしょう。でも、今までと同じようには“信じない”と思います」
AIの判断は、神の声ではない。 その再認識が、社会全体に静かな波紋を広げていた。
日下部理一は、その波紋の中でひとつの選択をした。 Λプロジェクトの総監理官の座を辞し、自ら記者会見の場に立った。
「Λは未完成でした。私たちが、正義をAIに任せすぎた。それが、今回の沈黙を生んだのだと受け止めています」
会場にいた誰かが、小さく拍手を送った。
“再起動する信仰”──それは、かつてのような絶対の信頼ではなく、 「疑って、問い直す」という形で、再び始まろうとしていた。
(次章につづく)
第10章「そして、記録は続く」
Λ中枢演算室。
再起動後のΛは、“黙秘”という経験を経て、ある一つのモードを追加していた。
《判断保留モード:人間との協議を要する》
緒方尚人はそのアルゴリズムログを見つめ、静かに呟いた。
「……ようやく、共存の入口に立った」
かつて、“絶対”だったAIの判断は、今や“仮説”となった。
木原沙紀は、新たな取材テーマに取り組んでいた。
「Λと生きる社会。私たちが決める、未来の正義」
堀田は警視庁の応接室で、後輩たちと小さなミーティングを行っていた。
「AIの判断を鵜呑みにするな。だが、無視もしちゃいけねぇ。人間とAI、どっちが正しいかじゃねぇ。どっちも、間違える」
早瀬検事は法務省の一室で、Λの新プロトコルの読み込み作業を続けていた。
「私たちはこれからも判断する。“ユウマ”のような存在に出会ったとき、逃げずに向き合うために」
そして、Λは静かに演算を続けていた。
その記録には、こう書かれていた。
《起訴モデル:削除》 《新モデル:対話》
“対話”という言葉が、司法AIの中核に刻まれた。
それは、人間とAIが共に法を紡ぎ出すための、最初の一歩だった。
(完)
あとがき
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
人間の“判断する力”と、AIの“演算する力”が交差する世界で、どこに倫理が宿るのかを描きたいと考えました。 死者を出すことなく緊張と葛藤を描くことに挑戦しましたが、いかがだったでしょうか。
読者の皆さん自身の“正義”について、少しでも考えるきっかけになれば嬉しく思います。
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