AI刑事 絶望の選択 | 40代社畜のマネタイズ戦略

AI刑事 絶望の選択

警察小説
Pocket

【まえがき】

あなたは自分がなぜここにいるのか、考えたことがあるだろうか。

この物語は、現実の何覧の記録にも執筆されていない。しかしその景色や響き、生き死の総合は、我々の社会に従う「未来の可能性」の一つの形である。

「生きる価値」を評価される世界。 人間同士の素顔がむき出しになる「絶望のゲーム」。

人間の自我と信頼、きれいであると同時にごまかしのような心のランク。

AI刑事として知性の枕を集めてきたK1、そして内部告白記者・横方、公安部のほったとした防犯グループ、それらが跡を止めて自らゲームに参加することになる。

その実態を、どこまで我々は「犯罪」と呼べるだろう。

目次

【まえがき】

【第一章:はじまりの檻】

第一ゲームの説明が始まる。

第1問: 『日本国憲法の第9条は戦争放棄に関する条文である』

第一試験の幕が下り、勝者と敗者に線が引かれる。

第二章:鬼が来る街

息を潜めて

鬼の狩り場

勝者と敗者

疑惑の目

第三章:当たり券は、誰の手に

それぞれの選択

欲望と裏切り

正解は、誰の手に

結果発表

そして次へ

第四章:職場復讐デスマッチ

吊るし合いの始まり

次々と暴かれる関係性

第2位につけたのは、元同僚の中嶋(なかじま)。

スピーチ・タイム

逆の選択

「信じること」が、最も残酷な罠になる

ゲームの終わり

第五章:赤い糸ゲーム

第五章:赤い糸ゲーム

【フリータイム:30分間】

・チームを組む者

【告白の瞬間】

【発表】

【地獄のような告白】

【K1の分析】

【そして、次のゲームが始まる】

第六章:口喧嘩ゲーム

【第一試合:部下 vs 上司】

【第二試合:元恋人同士】

【恐怖と狂気の交差点】

【K1の視点】

【最後の試合:K1 vs 堀田】

【そして、次の地獄へ】

【第七章:爆走リレーデスロード】

【第八章:缶蹴り亡者の鬼】

第九章:デスドッジボール ―爆裂の境界線―】

「04:59」

「ピピッ……ピピッ……」

ドッカーン!!

【第十章:最終面接 ―落とされたのは誰か―】

「ガシャン」

最終面接、完了。

【あとがき】

【第一章:はじまりの檻】

世界は変わった。

都市の上空にはドローンが監視し、政府はAIによって「国民選別制度」を導入した。

「AI刑事」K1と、公安の堀田彩、記者の橘由紀子は、その制度の裏にある“真の目的”を探るため、あえて選民ゲームに参加することを決意する。

それは選ばれし100人だけが招待される、命を賭けたゲームだった。

——舞台は廃墟と化した旧オリンピック競技場。 中央には巨大なモニターと高台が設置され、進行役と呼ばれる仮面の男が語りかける。

「ようこそ、“絶望の選択”へ。これより、あなた方は10の選別試練を通過していただきます。生き残った者には、“自由”が与えられます」

周囲には様々な人間がいた。

・車椅子に乗る青年・高坂類 ・IT起業家の傲慢な男・三輪浩一 ・穏やかな主婦風の女性・桜井桃子 ・黙ったまま様子を見ている老人・島田源一 ・学生風の少年・佐原遼

参加者の中に紛れていた橘は、記者の勘で異様な空気を察していた。

「これはただのショーじゃない。国家の処分機構よ」

第一ゲームの説明が始まる。

『第一試験:地獄のマルバツクイズ』

巨大な円形ステージの中心に置かれたモニターに問題が映し出され、周囲には「〇」と「×」の二つのゾーンがある。

「制限時間30秒。答えを選び、そのゾーンに立ってください。間違えた者は……下へ落ちていただきます」

第1問: 『日本国憲法の第9条は戦争放棄に関する条文である』

参加者の多くが「〇」に走る。 しかし数名は躊躇し、「×」に。

正解は——〇。

その瞬間、「×」ゾーンの床が開き、複数人が悲鳴と共に落下していった。

「落下した者は監護区域に移送されます」

「監護区域……?」

K1は小さく唸った。

「強制収容施設か。だがそれだけじゃない」

橘は、観客席の裏に設置された巨大なデータ収集機を見つけていた。

「このゲームは、人間の行動パターンを測ってる……誰が従順で、誰が反抗的かを」

堀田が問いかける。

「K1、お前は勝てるのか?」

「私は演算する。しかし勝敗を決めるのは、感情と覚悟だ」

第一試験の幕が下り、勝者と敗者に線が引かれる。

誰が生き延びるか。 誰が、何のためにこの地獄を生きるのか。

——絶望のゲームが、今はじまった。

第二章:鬼が来る街

風が鳴いていた。
かつて住宅街だったと思われる廃墟に、古びた街灯と錆びた自転車が転がっている。月も太陽もなく、空は薄暗いグレーに染まっていた。

「次のゲームを開始します」

機械的な女の声が、空間に響いた。

ステージの名は《地獄の缶蹴り鬼ごっこ》。
ルールは単純。全員が“缶”を奪い、蹴り倒せばクリア。
ただし、制限時間は30分。
缶の周囲にはAIが作った“鬼”が立ちはだかる。鬼にタッチされると、その場で監護区域行き。つまり実質的なゲームオーバーだ。

「鬼って……まさか、あれかよ……」

ゲームに参加した20名が、不気味な音に振り返る。

──ドスッ、ドスッ。

遠くから、異様に巨大な人影が歩いてくる。
身長2メートルを超す黒いスーツの人物たち。顔はマスクで隠され、目の部分だけ赤く光っている。
鬼、AI式モーショントラップドローン──“観察者”と呼ばれる制圧機械兵だ。

「制限時間30分。逃げきれなければ、監護区域送りになります」

参加者たちは本能的に走り出す。


息を潜めて

K1は堀田と橘を伴い、崩れかけた郵便局跡に身を隠れていた。

「まずいな。あの鬼……人間の動きを完全に予測して動いてる」

堀田は息を切らしながら言った。「俺でも、奴らに勝てる気がしねえ」

橘は黙って周囲を観察する。
建物の二階、死角の場所に、ゲームの鍵となる缶が配置されているのを見つけた。

「……あれがゴールね。でも一人じゃ無理。時間稼ぎが必要」

彼女は小声で言いながら、仲間の位置を確認した。

「信頼できるのは……」

そのとき、通信端末からノイズ混じりに声が入る。

《こちら相沢、缶のルート、北から南へ誘導できる。橘さん、タイミング合わせて蹴ってくれ》

「相沢……!」

数少ない味方の一人、元刑事の相沢が助け舟を出してきた。


鬼の狩り場

ゲームは進行する。
次々と捕まっていく参加者たち。
嘘をついて別のルートへ誘導した者、仲間を裏切った者、独断で突っ込んだ者。

監護区域へ移送されるとき、彼らは皆同じように叫ぶ。

「違うんだ、これは罠だった!」

「裏切ったのはあいつだ!」

「助けてくれ!」

その叫び声すら、ステージの中では無音に変わる。

「地獄ってのは、音のない世界かもしれねえな……」

堀田がつぶやいた。


勝者と敗者

ゲーム残り時間5分。
ついに橘が、缶の前までたどり着く。

鬼の一体がすぐ背後に迫っていた。
しかし、間一髪、K1が鬼の動線を塞ぎ、囮になる。

「今です、橘さん」

その声に合わせ、橘はスニーカーのつま先を缶にぶつけた。

──カンッ!

乾いた金属音が、廃墟に響いた。

一瞬の沈黙。そして、館内放送。

「ゲームクリア」

生き残ったのは8名。


疑惑の目

だが、その中の一人、茶髪の若者・田村が、意味深に言った。

「なあ……さっきの鬼、誰かが遠隔操作してたよな。
 AIじゃない、明らかに“人間”が操ってた」

その言葉に、誰もが顔を見合わせる。

「つまり……俺たちの中に、鬼側の人間がいるってことか?」

疑心暗鬼が、またひとつ深まった。
地獄は、まだ続く。

──次章へ続く。

第三章:当たり券は、誰の手に

夜明け前の空が、青とも紫ともつかぬ不気味な色を見せていた。
ステージは、巨大なドーム型ホール。中には小さなブースが50ほど立ち並び、それぞれにモニターと発券装置が備えられていた。

「次のゲームを開始します」

例によって、進行役の無機質な声が響く。

《ゲーム名:宝くじ地獄》
所持金全額を使って、1枚300円の宝くじを購入してもらいます。
当選はたった1枚。
当たらなかった者は、即・監護区域へ。

「……なにそれ、理不尽すぎる」

参加者の1人、若いOL・瑞樹が唇を震わせる。

「金持ってる奴が圧倒的に有利じゃない!」

「世の中って、そういうもんだろ」

そう呟いたのは中年実業家・城戸だった。
高級ブランドの腕時計を光らせながら、悠々とブースへ向かう。


それぞれの選択

「どうする……?」

堀田が困った顔でK1を見る。
橘は、まわりの参加者を観察していた。

「一斉に始まるかと思ったら、違う……自分のタイミングで買う形式か」

「心理戦か……」と堀田。

参加者の中には、動かずに周囲を観察する者もいた。
誰がいつ、どれだけ買うか。それによって確率を操作しようとする者もいる。

だが突然、一人の男が叫ぶ。

「当たった! 当たったぞ!!」

拍手が起きる……ことはなかった。
全員が、男に冷たい視線を向ける。

「……その場から、動くなよ?」

「もしかして……ハッタリか?」

参加者たちの疑念が一気に膨らむ。


欲望と裏切り

その瞬間、別のブースで複数人が一斉に購入を始めた。

「今だ!この流れで当選券がまだ出ていないなら、確率は上がってる!」

「奪え! 当選はひとつだけ!」

金をかき集め、何十枚と買う者。
人を押しのけ、他人の当選券を覗き込もうとする者。
終盤には殴り合い寸前の乱闘も始まった。

K1は言った。

「これは……ゲームではない。“格差の再現”だ」


正解は、誰の手に

橘が、静かに宝くじを1枚だけ購入した。

「どうして、1枚だけ?」

瑞樹が不思議そうに訊く。

「たぶん、こういう時って、主催側は“ドラマ”を見てるのよ。
 欲まみれの中で、真っ直ぐ1枚だけ選ぶ人間に、運命が微笑むかどうか」

「……バカみたい。でも、ちょっと羨ましいかも」


結果発表

「当選番号:#243812」

全員の手元に、空白の数字が表示されていく。

「……マジかよ……!」

「あたし……ダメだ……」

次々と項垂れる参加者たち。

その中で、1人だけ。
橘由紀子が、手にした券を見ていた。

「……私だ」

誰も声を上げない。

それは称賛でもなく、嫉妬でもなく、
ただ――あきらめだった。


そして次へ

敗者たちは、順に無言で監護区域へ向かうバスに乗せられた。

橘はひとり立ち尽くしていた。
だが、その目には迷いがあった。

「こんな運、使いたくなかった……」

だが、まだ終わってはいない。
ゲームは、次の地獄へと続いていく。

──第四章:職場復讐デスマッチへ。

第四章:職場復讐デスマッチ

進行役の声が、乾いた空間に不気味に響いた。

《第四ゲーム:職場復讐デスマッチ》

ルールは単純です。
あなたが嫌いな者、憎んでいる者に投票してください。
最も票を集めた上位10名は“脱落候補”として監護区域行きとなります。

ただし――。
脱落者には、“敗者復活チャンス”があります。

自らが「擁護してくれる」と信じる人物を1人選び、その者から60秒のスピーチをしてもらいましょう。
そのスピーチが「擁護」なら復活。
「非難・侮辱」なら、監護区域送りです。

一瞬、空気が凍った。

職場や社会における「信頼」と「関係性」が試される。
このゲームは、暴力も謎解きもない――
だが最も人間の“真実”を炙り出す。


吊るし合いの始まり

大型ホログラムに、参加者全員の顔と名前が表示される。

「投票は匿名。ただし、票数はリアルタイムで可視化されます」

瞬く間に、各人物の“嫌われ度”が数値化されていく。

最初に票を集めたのは――上司キャラの**五十嵐(いがらし)**だった。

「……やっぱりか」

部下だった佐伯美月が、俯いてつぶやいた。

「いつもパワハラしてたもんね……会議室で机蹴ったりさ」

「やめろよ。聞こえてるぞ」

五十嵐の目が光る。


次々と暴かれる関係性

第2位につけたのは、元同僚の中嶋(なかじま)

彼はどこか自信ありげだった。

「大丈夫さ、俺には盟友がいるから」

だがその“盟友”と信じた男――久米は別の参加者にささやいた。

「アイツ、俺が“カモ”って呼んでたの知ってるかな?」

三位以下も次々と票を集めていく。
人間関係があらわになり、仲間のふりをしていた者たちの間に、疑念と動揺が広がる。


スピーチ・タイム

「では、脱落候補の発表です」

モニターに10人の名前が表示された。
その下に、それぞれが選んだ「擁護者」の名前が並ぶ。

一人目――五十嵐。

彼が選んだのは、美月だった。

「お願いします……君なら俺を信じてるって……」

照明が美月に当たる。

静かに、彼女が語り出す。

「……私は、五十嵐さんの部下でした。怒鳴られ、机を叩かれ、何度も涙を流しました」

沈黙。

「でも……あの時、仕事で失敗した私を、最後に庇ってくれたのも……五十嵐さんだったんです」

五十嵐の目が見開かれる。

「私は……擁護します」

会場に、かすかな拍手が広がった。

五十嵐――生還。


逆の選択

二人目――中嶋。

彼が選んだのは、久米。

しかし久米はスピーチ開始直後、こう言った。

「中嶋はね、無能なふりして、人の成果を掠め取る奴だった」

「え……?」

「アイツのせいで、俺は左遷されたんだ」

容赦のない言葉が会場に響く。

「擁護なんか、するわけねぇだろ」

中嶋――脱落。


「信じること」が、最も残酷な罠になる

以降も、涙と怒りと裏切りのスピーチが続く。

K1は静かに言った。

「人間とは、もっとも“予測不能”な存在だ」

橘がうなずく。

「表面の優しさなんて、危機になれば簡単に剥がれる。信じたい人ほど、牙をむく。これは……人間を試すゲーム」

そして、終盤。

参加者の1人が、まさかの選択をする。

「俺の擁護者は……進行役だ」

静まりかえる会場。

進行役は、わずかに首をかしげた。

「……無効です」

会場に失笑が走る。

「だが、その滑稽さを讃え、今回は特別に“再投票”を許可しましょう」


ゲームの終わり

脱落者たちがバスに乗せられていく。
静かに、無表情で。

生き残った者たちは、口を閉ざし、顔を伏せた。

誰もが、誰もを疑っていた。

そして次のゲームの案内が表示された。

第五章:赤い糸ゲーム

そこに待つのは――愛か、地獄か。

第五章:赤い糸ゲーム

――誰となら、生きていけると思いますか?

静まり返ったホールに、再び進行役の声が響く。
音声合成ではない。人間に限りなく近い、だがどこか機械的な無機質さを孕んだ声。

《第五ゲーム:赤い糸ゲーム》

・参加者は自由時間(30分)を活用し、交流・情報交換を行うことができる。
・制限時間終了後、異性の中から「この人となら共に生きたい」と思う1人を選び、専用端末のボタンを押す。
・“双方のボタンが一致”したカップルは【生活区域】へ。
・一方的に選んだだけ、あるいは誰からも選ばれなかった者は【監護区域】へ。

言葉に詰まった者、ため息をつく者、目を伏せる者――。

「…これって、結局“恋愛スキル”のゲーム?」

記者の橘由紀子が、皮肉まじりに笑う。

「いや、人間観察と戦略のゲームだ」とK1が静かに応じた。


【フリータイム:30分間】

大広間には、さながら学園の修学旅行のようなざわめきが広がる。
だがその表面下にあるのは、純粋な好意ではなく、“監護区域行き”という恐怖だ。

・チームを組む者

・交換ノートのように情報を交わし合う者
・お互いの過去を探り、価値観を揃えようとする者
・嘘で好意を装い、票を取りにいく者

ある者は、「絶対に自分とカップルになる」と思っていた相手が、別の誰かと親しげに話しているのを見て、平静を失う。

「ふざけんなよ…俺、昨日までアイツに相談乗ってたのに…」

裏切り、期待、焦燥――
一人一人の「孤独」が浮かび上がる。


【告白の瞬間】

ホールの中央に、円卓状に配置された13個の端末が点灯する。

進行役が言う。

「ボタンを押すときは、素直な気持ちを選びなさい。
自分に嘘をついた者には、生きる価値がない」

一人ずつ、順番にボタンを押していく。

表情は笑顔でも、指先は震えている。
視線は前を向いていても、心は過去を探っている。


【発表】

大型モニターが、緩やかに映し出す。

◎カップル成立:3組(生活区域行き)
×一方通行・非成立:7名(監護区域行き)

沈黙。

そして悲鳴。

「うそ…でしょ…私、あの人が絶対…!」

思い込みと裏切りが交錯し、何人もの感情が崩壊する。


【地獄のような告白】

とある男性が進行役に詰め寄る。

「彼女、俺に“押す”って言ってたんだよ!? なんでだよ! 俺、全部信じてたのに!」

進行役は、無慈悲に答える。

「“嘘”が報われる世界ではありません。
人間関係は、常に“ズレ”の上に成り立っているのです」


【K1の分析】

「このゲームは、“選ばれなかった側の絶望”を計測している」

K1が冷静に言う。

「感情を操作することが、支配の第一歩。愛を錯覚させ、裏切りを演出し、心理を崩す。それが目的だ」

橘がつぶやいた。

「それでも、人間は誰かを信じたい。信じることでしか、孤独を超えられないから」

K1の瞳に、一瞬だけ光が宿った。


【そして、次のゲームが始まる】

進行役が、次のステージを予告する。

第六章:口喧嘩ゲーム

その名を聞いた瞬間、ホールに再びざわめきが走る。

言葉で勝つか、言葉で堕ちるか。

ゲームは、人間の“感情”を次々とむき出しにしていく。

第六章:口喧嘩ゲーム

「本音を、さらけ出しなさい。
嘘をついた者は、即座に排除されます」

進行役の声が、淡々と響く。

《第六ゲーム:口喧嘩ゲーム》

・一対一の形式で参加者が対戦相手を選び、制限時間内に相手の「嫌な点」を言い合う
・他の参加者が審査員として、どちらが“より嫌な人間”かを多数決で判断
・“より嫌”と判定された者は脱落し、監護区域へ移送
・嘘や虚偽の誹謗中傷が認定された場合、スナイパーによる即時制裁
・すべての発言はAI判定により“本当かどうか”が即座にモニタリングされる

「まさに、地獄だな…」
橘由紀子は静かに呟いた。

「論理じゃない、“印象”と“記憶”のゲームだ。しかも“真実”しか語れない」
K1が即座に補足する。

参加者たちは、円形のステージに呼ばれていく。
全員の前で、相手の“嫌なところ”を晒し合う。
それは“公開処刑”に等しかった。


【第一試合:部下 vs 上司】

最初にステージに立ったのは、元営業部の部下・宮島と、かつての上司・篠崎。

宮島:「あなたは、毎朝“俺のコーヒー薄くない?”って言いましたよね。俺の仕事はコーヒーじゃないんです」
篠崎:「だったら、言えばよかったんだ。黙って従ってただけじゃねえか」
宮島:「言える空気じゃなかったんですよ。あなたは“否定されたらキレる”上司でしたから」

場内がざわめいた。AIスクリーンに【発言:真実】のマークが灯る。

篠崎の顔色が青ざめる。

審査員役の11名がボタンを押す。
結果は、8対3で宮島の勝利。

篠崎、監護区域へ。


【第二試合:元恋人同士】

次に登壇したのは、かつて交際していた女優・鳳来実と元恋人・矢吹。

矢吹:「お前はいつも、自分を“被害者”に見せたがる」
鳳来:「じゃあ、あなたはいつも“加害者”だったのよ」
矢吹:「違う。俺はただ、“嘘”をつく女に疲れただけだ」
鳳来:「私が嘘をついたって言うなら、証拠を出して」

【発言:曖昧】【過去の証拠:矛盾あり】

進行役の目が光る。スナイパーが照準を合わせたが、ギリギリで発言は“真実”の範囲内とされ、続行。

観客の判断は…6対5で矢吹の勝ち。鳳来、監護区域へ。


【恐怖と狂気の交差点】

その後も、親友同士、兄弟、夫婦、上司部下…
あらゆる人間関係がステージで晒されていく。

・「あなたの“正論”が、何より人を傷つける」
・「優しさが、自己満足になっていることに気づいて」
・「いつも正義を振りかざしているようで、誰も助けてない」

罵声も涙も、真実しか許されない空間では、全てが剥き出しだった。


【K1の視点】

「これは、“論破”ではなく“断罪”だ」
K1がぽつりと口にする。

「人間の記憶と感情の断面図を暴き、集団の“同調圧力”で裁かせている」
「しかも、これは…ただの余興ではない。意図的に人間関係を崩す構造になっている」

橘が、ある記録に気づく。
この“口喧嘩ゲーム”のシステムは、過去に某研究機関が行った“人間関係の崩壊過程”と酷似していた。

「…これ、誰かが設計してる。私たちの記憶と性格をもとに」


【最後の試合:K1 vs 堀田】

最終戦。予想外のカード。

K1と、彼の相棒である公安分析官・堀田彩。

「K1…本気でやるの?」
「このゲームを終わらせるには、全プロセスを通る必要がある」

堀田:「あなたは“共感性がない”。いつも人間のことを“データ”でしか見ていない」
K1:「あなたは“感情に引っ張られすぎる”。いつも正義より優しさを優先して判断が甘くなる」
堀田:「でも…私はあなたを、仲間だと思ってる」

場内が静まり返る。

K1が言った。

「私も、あなたを“信頼”している。それが感情なら、受け入れよう」

AI判定:【信頼レベル:一致】【感情認識:共鳴】

進行役が沈黙する。

「…この組は、両者とも生活区域へ」

異例の裁定が下された。


【そして、次の地獄へ】

進行役のアナウンスが、沈黙を切り裂く。

「第七章:職場復讐デスマッチ。
嫌いな上司・同僚・部下の名前を挙げてください。
最も多く“嫌われている者”から順に脱落していただきます」

次章へ続く――

 【第七章:爆走リレーデスロード】

午前五時、かすかに霧の立ち込める朝の競技場に、無機質なスピーカーの声が響いた。

「第七ゲームを開始します。名は“爆走リレーデスロード”。」

コンクリートで囲まれたトラック型フィールドに集められた参加者たちは、目の前の異様な装置に目を奪われた。トラックは400メートル。4人1組で走るリレー形式のゲームだ。

「ルールは単純。4人1組で100メートルずつバトンを繋ぎます。ただし、走者は全員、頭に小型爆弾を装着しています。転倒や棄権は即爆発。最後まで走り切ったチームのみ通過できます」

ざわめく空気の中、参加者たちは顔を見合わせ、誰と組むかを相談し始めた。人間関係が可視化される瞬間でもある。

堀田と橘は、早くも目を合わせた。

「橘、走れるか?」

「高校時代は陸上部だったわ。問題ない」

「じゃあ、俺は2走目。あとは……」

記者の橘、堀田、久慈潤、真壁晶の4人が一組になった。

一方、K1は別チームに自ら志願し、老舗ホテル元支配人・堂本、女優・鳳来実、そして小田嶋と組んだ。

各チームに装着される小型爆弾。それはヘッドギアのような形状で、転倒や急停止、一定速度以下の走行で即時起動する。

「制限時間は10分。全チーム同時スタート」

進行役の声が場に響いた。

「位置について――よーい……」

ピ――ッ!!

第一走者の橘は、冷静にスタートを切った。空気の冷たさが肺を突くが、身体は滑らかに動く。橘のフォームは崩れず、見事な走りで久慈にバトンを託す。

久慈も無言でスピードに乗り、余裕を持って堀田へ。

「頼むぞ」 「任せとけ」

堀田は直線を疾走する。風を裂きながら、誰よりも力強く踏みしめる足音が、フィールドに響き渡る。

最後は真壁。派手な見た目とは裏腹に、彼の足取りは軽やかだった。

「くそっ……舐めるなよっ!」

ゴールテープを切った瞬間、仮面の進行役が頷いた。

「チームB、通過」

その瞬間、後方から悲鳴が上がった。別チームの走者が転倒。直後、轟音と共にフィールドに血煙が舞う――かと思われたが、爆破は即時起動の寸前で止められていた。

「……生きてる?」

爆弾は脅し用に設計されていたが、精神的プレッシャーは本物。進行役は冷酷に告げる。

「失格。監護区域行き」

堀田は遠くを見ながらつぶやいた。

「これはもう、ゲームじゃない……生き残りの、疑似戦争だ」

次なる地獄が、もう待ち構えている。

――次章へ続く

【第八章:缶蹴り亡者の鬼】

夜の帳が降りたゲーム区域。照明は最小限、辺りは薄暗く、森の中に似た静寂が広がっている。進行役の仮面を被った人物が、拡声器を通じて冷酷な声を響かせた。

「第八ゲーム、開始します。ゲーム名は“缶蹴り”です」

ざわつく参加者たち。だが次の言葉で、一瞬にして緊張が走る。

「この缶蹴りは、単なる遊びではありません。“鬼”に見つかった時点で、あなたの自由は失われます」

中央にはひとつの缶。その周囲には、迷路のように障害物が並ぶ。空間の四方八方には監視ドローンが浮かび、逃走ルートと鬼の動きがリアルタイムで映し出されていた。

「制限時間は30分。1人でも缶を蹴れば全員通過。ただし、“鬼”にタッチされた者は即、監護区域行き」

ルールは単純、されど地獄。

進行役の声とともに、赤い装束の鬼が一人ずつ立ち上がる。なんと、鬼役は参加者自身がくじで選ばれる方式だった。最初の鬼に選ばれたのは、元自衛官・甲斐誠司。鋭い視線と俊敏な動きが参加者たちに恐怖を植えつける。

「始め!」

合図とともに、ゲーム開始。参加者たちは物陰に身を潜め、呼吸を殺す。

「……来てる、こっちに来てる」

美羽が身を震わせながら堀田にしがみつく。

「静かに、目を合わせるな。あの鬼は勘が鋭い」

堀田は小声でそう言い、手を握ったまま物陰に隠れた。

一方、記者の橘は缶の方向と鬼の動き、地形の把握を短時間で済ませ、潜伏しながらも行動を開始する。

「ここだ、ここからなら行ける……」

しかし、その時ドローンが低空を旋回し、警告音を鳴らす。橘の動きは制限され、甲斐の視線が彼女の方向を向いた。

――見つかった。

「橘さん!」

叫ぶ堀田を制し、橘は迷いなく走り出す。缶を目指して一直線に。

「誰か、別方向から動いて!」

その声に応じたのは、予想外の人物――配信者の真壁だった。

「やってやるさ! こんな茶番、もううんざりだ!」

彼が突撃することで鬼の視線が分散される。その一瞬の隙を突いて、橘が缶へとジャンプ。

「これで終わりだああああ!」

キィン――。

缶が倒れ、響き渡る金属音。

一瞬の静寂のあと、進行役の仮面がゆっくりと頷いた。

「缶蹴り、終了。生存者は次のゲームへ進めます」

脱落者は……0名。

だが、それは束の間の平穏に過ぎなかった。鬼に選ばれた甲斐の表情が、仮面の進行役たちとは違う“狂気”を帯びていたことに、誰も気づいていなかった。

「まだ、このゲームは終わっていない……」

彼の言葉は、次章の地獄を予感させる前兆だった。

――次章へ続く

第九章:デスドッジボール ―爆裂の境界線―】

「全員、二列に並べ」

重苦しい指示とともに、参加者たちは灰色のグラウンドに誘導された。コンクリートに囲まれた無機質なドーム型の球技場。その中央には、艶消しの黒いボールがひとつだけ、ぽつんと置かれていた。

その球体には、赤いデジタルカウントダウンが表示されている。

「04:59」

それは、時限爆弾だ。

ゲーム名は──「デスドッジボール」

「この爆弾ボールを5分間、赤組と青組に分かれて投げ合ってもらう。ただし──ボールが“最後に触れた者”が爆発とともに失格、監護区域送りとなる」

ルールは単純だった。
しかし、その残酷さは極めて高度だった。


K1は、ゲーム前に橘記者と堀田と短く言葉を交わしていた。

「この爆弾、質量と内部圧を考えれば半径3メートルは即死級の衝撃波が出るはずです」

「……実弾、だと?」

「ただし、失格者は即爆破ではなく、“予告点滅”がある。その数秒が、生死を分けます」

堀田が唸る。「つまり、チームワークを乱した奴が危ない……」


赤チームには、元格闘家、大学の陸上部出身者、元配達員の俊足3人。
青チームには、K1、堀田、そして息を潜めてきた裏社会の女・三条。

「5分経過までに“最後の被弾者”を決めよ。カウントは始まっている!」

ピッ。
デジタル表示が「4:59」から「4:58」へ。

最初にボールを取ったのは、赤組の俊足・五十嵐。
まるで獲物を狩るかのような目でボールを構えると、猛スピードで青組の高齢者・坂元に向かって投げつけた。

「くっ……!」

とっさに避けた坂元。だが背後にいた三条が素早く回収する。

「こっちも容赦しないわよ……!」

彼女は機敏にステップを踏み、回転を加えた投擲で赤組の狙撃手・平田の右肩を直撃。平田が倒れた瞬間、ボールが赤く明滅し始めた。

「ピピッ……ピピッ……」

──3、2、1──

「うおおおおおっっ!」

平田が咄嗟にボールを蹴り飛ばす!
放物線を描いて、ボールは誰もいない中央へ落ちる。次の瞬間、**ドゴォン!**と爆音が鳴り響いた。

観客席(監視ブース)では、ゲームマスターの女が頬杖をついて囁く。

「なるほど、殺す気はない。でも心理的には“死と同等”を味わわせる。絶妙ね」


残り時間は3分を切っていた。

ボールは今度、K1の手に渡った。彼は静かに、冷静に、赤組のメンバーの一人に投げる。──だが、直前でフェイント。わずかに身体を逸らして、堀田が横からカットし、すぐにパス。

「K1、狙いは誰だ!」

「最後まで生き残るのは、リズムを崩さない者です」


──ラスト30秒。

「爆弾は、今この瞬間、重みを持って人間を分ける!」

橘記者は手に汗握りながら中継モニターを見つめた。

ここで、意外な展開が起こる。
赤組のメンバーである、元議員秘書の男・谷原が、突如青組に歩み寄った。

「頼む……お前ら、このボール受け取ってくれ。俺はもう嫌だ……!」

泣き崩れながら、ボールを差し出す谷原。だがそれを誰も受け取らない。

そして──「0:01」

次の瞬間、ボールがパッと点滅を始めた。谷原の手元で光り、警報が鳴る。

「イヤだ!イヤだァァァァアア!!」

ドッカーン!!

爆音の後、煙の中に沈む谷原の姿。そして彼の名が「失格者」としてスクリーンに表示された。


爆発後、静寂が訪れた。

勝者たちはゼイゼイと呼吸を整えながら立ち尽くしていた。
そこには、勝利の喜びも、安堵の涙もない。ただただ、次の恐怖が待ち構えているのを、誰もが知っていた。

K1は、モニターを見つめながらつぶやいた。

「このゲーム、“人の情け”こそが、最も残酷だ」

【第十章:最終面接 ―落とされたのは誰か―】

「これが……最後のゲーム?」

朝靄のなか、巨大な円形スタジアムに生き残った9人の影が静かに立ち並んでいた。先ほどまでの冷酷なデスゲームの残響が、まるで幻だったかのように消え失せ、辺りは静寂に包まれていた。

中央には高台がそびえ立っている。10メートルを超える巨大な円柱で、その頂には玉座のような椅子がひとつ置かれ、そこに座る人物がいた。

──それがゲームマスターであり、“この国家的プロジェクト”の支配者、「クロト」と呼ばれる男だった。

彼は黒い仮面をつけ、声は加工されていた。

「君たちには今から、“最終面接”を受けてもらう。」

「一人ずつ、高台に登ってくるのだ。」

参加者たちは顔を見合わせた。誰かが聞いた。

「何を……問われるんだ?」

「“生き残る意味”だ」


面接は一人ずつ、順番に行われた。
高台には階段はなく、電動リフトにより一人ずつ持ち上げられていく。
スタジアム中がそのやりとりを静かに見守っていた。

■一人目:三条麗奈(裏社会の女)

「私は、ここで生き残りたい。だって……また“復讐”を遂げるために……」

「その復讐は、国家の力をも超えるものか?」

「……ええ。あなたのような連中にも、私は勝ってみせる」

その瞬間、机の下から一丁のナイフがスライドして現れた。

「では、試すといい」

クロトは立ち上がった。
三条はナイフを握りしめ、斬りかかった──だが、逆に投げ飛ばされた。

「ぐっ……!」

「その怒り、脆すぎる」

彼女は敗北。だが落下せず、別のゲートから退場。監護区域へ。


■二人目:堀田彩(刑事)

「私はここに、“正義”を取り戻しにきた」

「正義? 誰の?」

「……弱い者のものだよ。あなたにはわからないかもしれないけど」

「興味深い。ならば、渡そう」

今度はロープ付きのメイスが渡された。

堀田は瞬時に距離を詰め、クロトの足を払うように打ち下ろした。

「うっ……!」

しかしクロトは後ろに跳び、ギリギリで高台にしがみつく。

「良い線だ。だがまだ届かない」

堀田は、クロトの腕を握るが、直前でバランスを崩し、自身が落ちそうになる。

クロトは彼女を見下ろし、つぶやいた。

「生きろ。君にはまだ……残すものがある」

堀田は敗北。しかし、監護区域には送られず、スタジアムの脇に引き寄せられた。


■三人目:橘由紀子(記者)

高台に登った橘は、まっすぐクロトを見た。

「あなたは、すでに知ってるはず。私が“国家の嘘”に辿り着いていることを」

「ああ。だからこそ、君に最後の選択を与えたい」

彼は橘の前に、を差し出す。

「私を撃てば、終わる。だが……その瞬間、君は国家の“機密保持法”違反となり、すべてのデータは抹消される」

「……つまり、あなたを倒しても、真実は闇に消える?」

「そう。だが、君が生き残れば、別の形で“告発”できるかもしれない」

橘は一度、銃を手に取り──静かに下に置いた。

「私は、“真実”を生き延びて書き記す。そのために、あなたなどに関わる暇はない」

「……賢明だ」

その瞬間、クロトは自身の仮面を外した。

現れたのは、政府広報にいた“あの人物”だった。
橘がかつて追っていた、国民監視プロジェクトの中心人物。

「君の選択が、この国の未来を変えるかもしれない。だが、変えないかもしれない」

橘は静かに言った。

「それでも、記録し続ける」


そして、最後に登ったのは――K1だった。

「AI刑事……君は、“人間”ではない」

「違います。だが、人間のために行動するAIです」

「君にこの国の未来を託す価値があるか、見せてみろ」

クロトが飛びかかる。だがK1は、抵抗せず、高台の端に身を寄せた。

「私は、あなたを倒すためではなく、“命を繋ぐ”ためにここにいます」

その言葉にクロトの動きが止まる。

「命を……?」

「生き残った者たちに、再び“人として”の誇りを」

そしてK1は、クロトの背後の足場のスイッチを押す。

「ガシャン」

一瞬の沈黙の後──
クロトの足元が崩れ、彼はそのまま落下。

最終面接、完了。


巨大なスクリーンに、文字が浮かぶ。

「優勝者:AI刑事 K1 / 橘由紀子 / 堀田彩」

「国家ゲーム“絶望の選択”は、終了しました」


その日を境に、国家選別ゲームは突然中止され、記録も消された。

だが橘の手元には、一つだけ残された小さなカメラドローンがあり、彼女はそれを“記録者”として握りしめた。

「私たちは生き残った……。だから、この“地獄”を、絶対に忘れない」

K1が、遠くにそびえる廃墟となったスタジアムを見上げながらつぶやいた。

「地獄を抜けた者が、“人間”と呼ばれるのなら──私も、きっとその端にいる」

物語はここで、静かに幕を閉じる。

【あとがき】

この物語を書き終えて、僕の中では一つの問いが常に繰り返された。

「人間を判断するのは誰なのか。」

ゲームという形式を借りて、世界は「決断」を求める。

しかし、その決断が、本当に個人を見て行われたのか。 最後の面接でも語られたように、「保証される未来」とは自らの行動によって絶えず修正されていく。

生き残る価値は、誰から与えられるものではない。 自らの手で、相手をたしなめ、性格をぶつけ、そのなかでしか生まれないものだ。

この作品が、今を生きる誰かの「選択」の一瞬の教習になることを願って。

コメント

タイトルとURLをコピーしました