- 28歳女性・不動産営業「上司が嫌いで転職したい」にどう関わるか
- 「転職したいです」に、すぐ答えを出してはいけない
- 事例理解――28歳女性・不動産営業は何に悩んでいるのか
- 年収500万円という現実
- 家族と同居している意味
- 「上司が嫌い」は本当の主訴か
- 相談者の葛藤を整理する
- マイクロカウンセリング理論とかかわり技法の基本
- かかわり技法とは何か
- SOLERで考えるかかわり技法
- 話を遮らないことの重要性
- あいづちとうなずきは「適度」が大事
- 沈黙を恐れない
- かかわり技法は「ただ優しくすること」ではない
- 実際の応答例――「上司が嫌いで転職したい」にどう返すか
- 相談開始場面
- 相談者の感情を深める応答
- 年収500万円への葛藤を扱う
- 家族との同居について確認する
- 要約によって相談内容を整理する
- 選択肢を一緒に整理する
- 相談者の主体性を尊重する
- 相談者理解とキャリア上の見立て
- 見立て1――上司との関係による心理的負担
- 見立て2――自己効力感の低下
- 見立て3――年収とキャリア選択の葛藤
- 見立て4――家族との関係と意思決定
- 見立て5――転職は目的か、手段か
- 見立ては相談者と共有しながら進める
- キャリコン実技試験で評価されるポイントと注意点
- 評価ポイント1――すぐ助言しない
- 評価ポイント2――感情の反映ができる
- 評価ポイント3――要約で整理できる
- 評価ポイント4――問題を多面的に把握する
- 評価ポイント5――相談者の主体性を尊重する
- 試験で避けたいNG対応
- この事例で使える応答フレーズ集
- 最後に
- かかわり技法は、相談者の人生を開く入口である
マイクロカウンセリングで読み解く転職相談
28歳女性・不動産営業「上司が嫌いで転職したい」にどう関わるか
はじめに
「転職したいです」に、すぐ答えを出してはいけない
キャリアコンサルタントの実技試験や論述試験で、非常によく出てくる相談がある。
それが、**「今の職場がつらいので転職したい」**という相談である。
一見すると、相談内容はわかりやすい。
今の仕事が嫌だ。
上司が嫌いだ。
職場に行きたくない。
だから転職したい。
このような相談を受けたとき、つい言いたくなることがある。
「では、転職活動を始めましょう」
「上司が原因なら、部署異動も考えましょう」
「年収500万円なら、転職で下がる可能性もありますね」
「まずは求人を見てみましょう」
「家族と相談してみてください」
もちろん、これらは間違いではない。
しかし、キャリアコンサルタントとしては、最初から助言や解決策に飛びつくのは危険である。
なぜなら、相談者が「転職したい」と言っているとき、その言葉の奥には、まだ整理されていない感情や葛藤が隠れているからである。
今回の事例を考えてみる。
相談者は28歳女性。
不動産営業職。
年収は約500万円。
家族と同居している。
主訴は、上司が嫌いで転職したい、である。
この情報だけを見ると、いくつかの論点が浮かぶ。
上司との人間関係が問題なのか。
営業成績へのプレッシャーが問題なのか。
不動産営業という仕事そのものが合っていないのか。
年収500万円を維持したいのか。
家族と暮らしているため、生活上の安全網はあるのか。
転職したい気持ちは一時的なものか。
それとも長期的なキャリアの迷いなのか。
「上司が嫌いで転職したい」という一言の中には、実はいくつもの要素がある。
だから、キャリアコンサルタントは、まず相談者の話を丁寧に聴く必要がある。
そのときに役立つのが、アイビイのマイクロカウンセリング理論である。
マイクロカウンセリングとは、カウンセリングに必要な基本的な技法を細かく分解して整理した理論である。
特に重要なのが、かかわり技法である。
かかわり技法とは、相談者が安心して話せるようにするための基本的な関わり方である。
視線。
姿勢。
身体の向き。
声のトーン。
うなずき。
あいづち。
表情。
沈黙の受け止め方。
話を遮らない姿勢。
こうした一つひとつが、相談者との信頼関係を作る土台になる。
キャリアコンサルタント試験では、理論名を知っているだけでは足りない。
アイビイ=マイクロカウンセリング。
これは暗記として重要である。
しかし、さらに大事なのは、実際の相談場面でどう使うかである。
「上司が嫌いで転職したい」と相談者が言ったとき、どのように聴くのか。
どのように受け止めるのか。
どのように質問するのか。
どのタイミングで要約するのか。
どこまで助言を控えるのか。
ここが実技試験で問われる。
このnoteでは、今回の事例をもとに、マイクロカウンセリング理論のかかわり技法を実践的に整理していく。
第1章では、事例の全体像を整理する。
第2章では、マイクロカウンセリング理論とかかわり技法の基本を説明する。
第3章では、実際の相談場面における応答例を示す。
第4章では、相談者理解と見立てを深める。
第5章では、キャリアコンサルタント試験での評価ポイントと注意点をまとめる。
この事例で大事なのは、転職するかどうかをすぐ決めることではない。
相談者が何に苦しんでいるのか。
何を守りたいのか。
何を変えたいのか。
どんな働き方を望んでいるのか。
どの選択肢なら納得できるのか。
それを一緒に整理することである。
キャリアコンサルタントは、相談者の人生を代わりに決める人ではない。
相談者が自分の人生を自分で選び取れるように支援する人である。
その第一歩が、かかわり技法である。
第1章
事例理解――28歳女性・不動産営業は何に悩んでいるのか
今回の相談者は、28歳女性である。
職業は不動産営業。
年収は約500万円。
家族と同居している。
相談内容は、上司が嫌いで転職したい、というものである。
まず、この事例を丁寧に分解してみたい。
表面的な主訴は、上司が嫌いで転職したいである。
しかし、キャリアコンサルタントが見るべきなのは、その奥にある構造である。
相談者は、なぜ上司が嫌いなのか。
単に性格が合わないのか。
高圧的な指導があるのか。
営業成績について厳しく詰められているのか。
人格否定に近い言葉を受けているのか。
相談できる同僚や先輩はいるのか。
会社全体の文化が合わないのか。
それとも今の仕事そのものに限界を感じているのか。
このように、同じ「上司が嫌い」でも、中身はまったく違う。
たとえば、上司との相性だけが問題であれば、社内異動や上司との関わり方の見直しで改善する可能性がある。
一方で、会社全体の営業文化が強いストレス要因になっている場合は、転職や職種変更も選択肢になる。
また、相談者が不動産営業そのものに向いていないと感じている場合、業界や職種の再検討が必要になる。
つまり、最初にやるべきことは、結論を出すことではない。
問題の正体を一緒に整理することである。
年収500万円という現実
次に重要なのが、年収500万円という情報である。
28歳女性で年収500万円というのは、決して低くない。
不動産営業として一定の成果を出している可能性がある。
しかし、この年収が相談者にとって安心材料なのか、逆に足かせなのかは確認が必要である。
相談者は、今の仕事が嫌でも、年収500万円を失うことに不安を感じているかもしれない。
「辞めたいけれど、年収が下がるのが怖い」
「転職しても同じ収入を得られるかわからない」
「今の会社を辞めたら、自分の市場価値が下がるのではないか」
「家族と暮らしているから生活はなんとかなるが、自立の面で不安がある」
このような葛藤が考えられる。
キャリア相談では、感情だけでも、条件だけでも不十分である。
感情としては辞めたい。
でも条件としては悪くない。
この板挟みが、相談者を苦しめている可能性がある。
だから、キャリアコンサルタントは、相談者の「辞めたい」という気持ちを受け止めながらも、同時に、年収や生活状況、将来設計も丁寧に整理する必要がある。
家族と同居している意味
相談者は家族と同居している。
この情報も、単なる生活状況ではない。
家族と同居していることで、生活費の負担は軽いかもしれない。
転職によって一時的に収入が下がっても、生活破綻のリスクは低い可能性がある。
一方で、家族の意見や期待が、本人の意思決定に影響している可能性もある。
「せっかく年収500万円あるのに辞めるのはもったいない」
「不動産営業は大変でも稼げるんだから続けなさい」
「転職するなら安定した会社にしなさい」
「家にいるなら生活費を入れてほしい」
家族と同居している場合、キャリアの選択が本人だけの問題ではなく、家族関係とも結びつくことがある。
ただし、ここで注意すべきなのは、キャリアコンサルタントが勝手に決めつけないことである。
家族と同居しているから甘えている。
家族と同居しているから転職しやすい。
家族が反対しているはずだ。
このような推測をそのまま前提にしてはいけない。
あくまで確認する必要がある。
「家族と同居されているとのことですが、転職についてご家族に話されたことはありますか」
「生活面での不安は、どの程度感じていらっしゃいますか」
「ご家族との関係は、今後の選択に影響しそうですか」
このように、相談者の状況を丁寧に確認することが大切である。
「上司が嫌い」は本当の主訴か
相談者は「上司が嫌い」と言っている。
しかし、キャリア相談では、最初に語られた悩みが、そのまま本質とは限らない。
上司が嫌いという言葉の奥に、別の思いが隠れていることがある。
たとえば、上司に認めてもらえないつらさ。
成果を出しているのに評価されない怒り。
営業成績を責められる苦しさ。
自分の能力に自信が持てなくなった不安。
不動産営業をこの先も続けることへの迷い。
20代後半になり、今後のキャリアを考え始めた焦り。
「上司が嫌い」は、感情の表現である。
しかし、その奥には、自己効力感の低下、承認欲求の傷つき、将来不安、職業適性への疑問があるかもしれない。
だから、キャリアコンサルタントは、上司の善悪を裁くのではなく、相談者が何を感じ、何に困り、何を求めているのかを一緒に探索する。
この姿勢が重要である。
相談者の葛藤を整理する
この事例では、相談者の中に複数の葛藤があると考えられる。
まず、辞めたい気持ちと、辞める不安である。
上司が嫌い。
会社に行くのがつらい。
転職したい。
しかし、年収500万円は捨てがたい。
転職先で同じ条件になるかわからない。
勢いで辞めて後悔したくない。
次に、感情と現実の葛藤である。
気持ちとしてはもう限界。
でも現実的には生活、収入、キャリアの継続性を考えなければならない。
さらに、自己評価の葛藤である。
営業職として一定の年収を得ている。
だから能力はあるはず。
しかし、上司から否定されることで、自信が揺らいでいる。
そして、将来像の葛藤である。
今の不動産営業を続けるのか。
同じ営業職で会社を変えるのか。
別業界に行くのか。
営業以外の仕事に移るのか。
そもそも自分はどう働きたいのか。
このように整理すると、相談者の悩みは、単なる「上司が嫌い」ではない。
仕事、収入、自己評価、人間関係、将来像が絡み合ったキャリア上の課題である。
だからこそ、最初に必要なのは、かかわり技法による関係づくりである。
相談者が安心して話せなければ、深い問題は出てこない。
「この人には話しても大丈夫だ」と感じてもらうこと。
そこから、キャリア相談は始まる。
第2章
マイクロカウンセリング理論とかかわり技法の基本
マイクロカウンセリングは、アイビイによって体系化されたカウンセリング技法である。
キャリアコンサルタント試験では、アイビイ=マイクロカウンセリングという組み合わせで覚えることが重要である。
ただし、試験で大切なのは、単に理論名を覚えることではない。
マイクロカウンセリングの考え方を、実際の相談場面でどう活用するかである。
マイクロカウンセリングでは、カウンセリングで使われる技法を細かく分けて学ぶ。
たとえば、かかわり行動、質問、観察、励まし、言い換え、要約、感情の反映などである。
これらは、キャリア相談でも非常に重要である。
相談者が話しやすい雰囲気を作る。
相談者の話を丁寧に聴く。
感情を受け止める。
話の内容を整理する。
相談者自身が気づけるように促す。
そのための基本技法が、マイクロカウンセリングである。
かかわり技法とは何か
今回の中心は、かかわり技法である。
かかわり技法とは、相談者が安心して話せるようにするための基本的な関わり方である。
一言でいえば、信頼関係を作るための土台である。
相談者は、初めて会うキャリアコンサルタントに対して、最初から何でも話せるわけではない。
「こんなことを言って否定されないだろうか」
「甘えていると思われないだろうか」
「転職したいなんて言ったら責められないだろうか」
「上司が嫌いと言ったら、わがままだと思われないだろうか」
このような不安を持っているかもしれない。
だから、キャリアコンサルタントは、最初に安心感を作る必要がある。
それが、かかわり技法である。
SOLERで考えるかかわり技法
かかわり技法は、SOLERという形で整理されることがある。
Sは、Squarely。
相手にまっすぐ向き合うこと。
Oは、Open。
開かれた姿勢を取ること。
Lは、Lean。
少し身を乗り出して関心を示すこと。
Eは、Eye contact。
適切な視線を保つこと。
Rは、Relaxed。
リラックスして自然に接すること。
この5つは、相談者に「聴いてもらえている」という感覚を与える。
たとえば、相談者が「上司が嫌いで転職したいんです」と話しているのに、キャリアコンサルタントが腕を組み、時計を見ながら、無表情で聞いていたらどう感じるだろうか。
相談者は、おそらく話しにくくなる。
逆に、身体を相談者に向け、落ち着いた表情で、適度にうなずきながら聴いてくれたら、相談者は話しやすくなる。
かかわり技法とは、言葉以前のメッセージである。
「あなたの話を聴こうとしています」
「急いで結論を出さなくて大丈夫です」
「ここでは安心して話していいです」
このメッセージを、姿勢や表情、声のトーンで伝える。
話を遮らないことの重要性
かかわり技法で非常に重要なのが、話を遮らないことである。
相談者が話し始めたばかりなのに、キャリアコンサルタントがすぐに質問を重ねると、相談者は話しづらくなる。
たとえば、相談者がこう言ったとする。
「上司が嫌いで、もう転職したいんです」
ここで、すぐにこう聞いてしまう。
「いつからですか」
「どんな上司ですか」
「転職先は決まっていますか」
「年収はいくらですか」
「家族は反対していますか」
これでは、相談者は取り調べを受けているように感じるかもしれない。
もちろん、情報収集は必要である。
しかし、最初に必要なのは、感情の受け止めである。
「上司との関係がかなりつらく、転職を考えるほど悩んでいらっしゃるんですね」
このように返すことで、相談者は「わかってもらえた」と感じやすくなる。
そのうえで、少しずつ状況を確認する。
これが自然な流れである。
あいづちとうなずきは「適度」が大事
かかわり技法では、あいづちやうなずきも重要である。
ただし、多ければいいわけではない。
「はい、はい、はい、はい」
「なるほど、なるほど、なるほど」
これを繰り返しすぎると、かえって機械的に聞こえる。
大切なのは、相談者の話の流れに合わせることだ。
相談者がつらい話をしているときは、少しゆっくりうなずく。
感情が強く出ているときは、急いで質問しない。
相談者が考え込んだときは、沈黙を待つ。
言葉に詰まったときは、急かさない。
キャリアコンサルタントは、相談者のペースを尊重する。
これが、かかわり技法の基本である。
沈黙を恐れない
実技試験では、沈黙を怖がる人が多い。
相談者が黙ると、すぐに何か言わなければと思ってしまう。
しかし、沈黙には意味がある。
相談者が考えているのかもしれない。
感情を整理しているのかもしれない。
言葉にするのを迷っているのかもしれない。
涙をこらえているのかもしれない。
その沈黙を、キャリアコンサルタントが急いで埋めてしまうと、相談者の内省を妨げることがある。
もちろん、長すぎる沈黙は支援が必要な場合もある。
しかし、短い沈黙は大切にした方がよい。
「少し考えていらっしゃるようですね」
「今、いろいろな思いが出てきている感じでしょうか」
このように、沈黙そのものを受け止めることもできる。
かかわり技法は「ただ優しくすること」ではない
ここで誤解してはいけないことがある。
かかわり技法は、単に優しくすることではない。
相談者に合わせすぎることでもない。
相談者の言い分をすべて肯定することでもない。
上司の悪口に同調することでもない。
「それはひどい上司ですね」
「そんな会社は辞めた方がいいですね」
「あなたは悪くありません」
このような言葉は、一見寄り添っているように見える。
しかし、キャリアコンサルタントとしては注意が必要である。
なぜなら、相談者の見方を固定してしまう可能性があるからである。
キャリアコンサルタントの役割は、相談者の味方になることではあるが、相談者と一緒に誰かを責めることではない。
相談者が自分の状況を多面的に理解し、自分で選択できるように支援することが役割である。
だから、かかわり技法では、次のような応答が望ましい。
「上司との関係で、かなりつらい思いをされているんですね」
「毎日会社に行くのが重くなるほど、負担を感じているんですね」
「転職したい気持ちと、収入面の不安の間で揺れているんですね」
このように、相談者の感情や葛藤を受け止める。
しかし、善悪の判断は急がない。
これがキャリアコンサルタントとしての基本姿勢である。
第3章
実際の応答例――「上司が嫌いで転職したい」にどう返すか
ここからは、実際の相談場面を想定して、応答例を見ていく。
相談者は28歳女性。
不動産営業。
年収500万円。
家族と同居。
上司が嫌いで転職したいと相談に来ている。
相談開始場面
相談者が最初にこう話したとする。
「今、不動産営業をしているんですが、上司が本当に嫌で、もう転職したいんです」
このとき、キャリアコンサルタントが避けたい応答は、すぐに結論を出すことである。
たとえば、
「では転職活動を始めましょう」
「上司が嫌なら辞めた方がいいですね」
「どこの会社にも嫌な上司はいますよ」
「まず求人サイトを見ましょう」
こうした応答は、相談者の気持ちを十分に受け止める前に、解決策に進んでしまっている。
望ましい応答は、まず感情の受容である。
「上司との関係が本当につらくて、転職を考えるほど悩んでいらっしゃるんですね」
この応答には、いくつかの意味がある。
まず、相談者の言葉を否定していない。
次に、上司との関係がつらいという感情を受け止めている。
さらに、転職したいほど追い詰められている状態を理解しようとしている。
これにより、相談者は話しやすくなる。
相談者の感情を深める応答
相談者が続けてこう言う。
「毎日、数字のことで詰められるんです。成果を出しても、もっとできるだろって言われて。もう顔を見るだけでしんどいです」
ここでの応答例はこうである。
「成果を出しても認めてもらえず、さらに数字を求められることで、かなり追い込まれている感じがあるんですね」
これは、相談者の状況と感情を両方反映している。
単に「大変ですね」だけでは浅い。
「成果を出しても認めてもらえない」
「さらに数字を求められる」
「追い込まれている」
このように、相談者の話の中にある重要な要素を拾って返す。
相談者がさらに話す。
「そうなんです。自分なりに頑張っているのに、全然認められないんです。最近は、自分が営業に向いていないのかなとも思います」
この発言には、重要な変化がある。
最初は「上司が嫌い」という話だった。
しかし、今は「自分が営業に向いていないのではないか」という自己評価の揺らぎが出ている。
ここでの応答例はこうである。
「上司から認められない経験が続く中で、ご自身の営業力や向き不向きまで不安になってきているんですね」
これは、非常に重要な応答である。
相談者の主訴が、上司への不満から自己効力感の低下に広がっていることを受け止めている。
キャリアコンサルタントは、表面的な言葉だけでなく、相談者の内面の変化を聴く必要がある。
年収500万円への葛藤を扱う
次に、相談者がこう話す。
「でも、年収は500万円くらいあるんです。だから辞めるのも怖いんです。家族と暮らしているので生活費は少ないんですけど、転職して年収が下がったらどうしようと思って」
この発言には、明確な葛藤がある。
辞めたい。
でも、年収が下がるのが怖い。
ここでの応答例はこうである。
「今の職場から離れたい気持ちは強い一方で、年収500万円という条件や生活の安定を手放すことには不安があるんですね」
これは、相談者の両価的な気持ちを整理する応答である。
キャリア相談では、相談者の中に矛盾した気持ちがあることが多い。
辞めたいけど辞めたくない。
変わりたいけど怖い。
挑戦したいけど安定も失いたくない。
今のままは嫌だが、次が見えない。
こうした葛藤をそのまま受け止めることが大切である。
ここで「年収が大事なら我慢しましょう」と言ってはいけない。
逆に「家族と暮らしているなら辞めても大丈夫でしょう」とも言ってはいけない。
相談者の価値観を確認する必要がある。
たとえば、こう問いかける。
「年収や安定は、今後の働き方を考えるうえで、どのくらい大切にしたい要素ですか」
「転職するとしたら、年収をどの程度維持したいと考えていますか」
「収入面の不安と、今の職場で働き続けるつらさを比べたとき、どちらがより大きく感じますか」
このように、相談者自身が優先順位を考えられるように促す。
家族との同居について確認する
相談者は家族と同居している。
ここで、キャリアコンサルタントは生活面や家族の影響を確認することができる。
ただし、聞き方には注意が必要である。
悪い聞き方は、決めつける質問である。
「家族は反対していますか」
「実家暮らしなら辞めても大丈夫ですよね」
「家族に甘えている部分はありませんか」
このような聞き方は、相談者を防衛的にさせる可能性がある。
望ましい聞き方は、開かれた質問である。
「ご家族と同居されているとのことですが、今回の転職について、ご家族には何かお話しされていますか」
「家族と暮らしていることは、転職を考えるうえで安心材料になっていますか。それとも何か気になる点がありますか」
「生活面での不安は、今どの程度ありますか」
このように、相談者が自由に話せる形で聞く。
相談者がこう答えたとする。
「母には少し話しました。無理しなくていいとは言ってくれます。でも、父は今の会社を辞めるのはもったいないと言いそうで、まだ言えていません」
この応答から、家族内にも支援とプレッシャーの両方があることがわかる。
ここでの返答例はこうである。
「お母様は無理しなくていいと言ってくれている一方で、お父様には辞めるのを反対されるかもしれないという不安があるんですね」
これは、家族関係における相談者の葛藤を受け止めている。
要約によって相談内容を整理する
ある程度話を聴いたら、要約することが重要である。
要約は、相談者の話を整理し、共通理解を作るための技法である。
たとえば、ここまでの内容を踏まえて、キャリアコンサルタントはこう言える。
「ここまでのお話を整理すると、現在は不動産営業として働いていて、年収は約500万円ある。仕事自体では一定の成果も出しているけれど、上司から数字を強く求められ、認めてもらえない感覚が続いている。その影響で、自分が営業に向いているのかどうかにも不安を感じている。一方で、転職したい気持ちはあるものの、年収が下がることや、家族にどう話すかという不安もある。そういう状況でよろしいでしょうか」
この要約は、かなり有効である。
なぜなら、相談者の悩みを多面的に整理しているからである。
上司との関係。
営業成績へのプレッシャー。
自己効力感の低下。
年収への不安。
家族への説明。
転職への迷い。
これらをまとめて確認している。
相談者が「はい、そうです」と答えれば、キャリアコンサルタントと相談者の理解がそろう。
そこから、次の探索に進むことができる。
選択肢を一緒に整理する
相談が進んだ段階で、選択肢を整理することができる。
ただし、ここでもキャリアコンサルタントが一方的に答えを出すのではない。
「転職するか、今の会社に残るかを今日すぐに決めるのではなく、まずは考えられる選択肢を一緒に整理してみませんか」
このように伝える。
考えられる選択肢には、次のようなものがある。
今の職場で、上司との関わり方を変える。
社内の相談窓口や人事に相談する。
異動の可能性を探る。
同じ不動産業界で別会社を検討する。
不動産営業の経験を活かして、法人営業やカスタマーサクセスなど別業界の営業に移る。
営業以外の職種にキャリアチェンジする。
すぐに辞めるのではなく、在職しながら転職活動を始める。
まずは自己分析と求人情報の収集から始める。
ここで大事なのは、選択肢を広げることである。
相談者は、つらい状態にあると、視野が狭くなりやすい。
「辞めるか、我慢するか」
この二択になってしまう。
しかし、実際には選択肢はもっと多い。
キャリアコンサルタントは、その選択肢を一緒に整理する役割を持つ。
相談者の主体性を尊重する
最終的に、転職するかどうかを決めるのは相談者である。
キャリアコンサルタントが決めることではない。
だから、応答として大事なのは、本人の主体性を尊重することだ。
「どの選択肢が、今のご自身にとって一番納得感がありそうですか」
「すぐに転職するかどうかではなく、まず一歩目としてできそうなことは何でしょうか」
「今の状況で、少しでも気持ちが整理される行動があるとしたら、何から始められそうですか」
このように、相談者自身が考え、選ぶことを支援する。
ここまでが、マイクロカウンセリングのかかわり技法を使った応答の流れである。
第4章
相談者理解とキャリア上の見立て
この事例では、相談者をどう理解するかが重要である。
キャリアコンサルタントは、相談者の話をただ聞くだけではない。
話を聴きながら、背景にある課題を見立てる必要がある。
ただし、見立ては決めつけではない。
あくまで仮説である。
相談者と対話しながら、少しずつ確認していくものである。
見立て1――上司との関係による心理的負担
まず考えられるのは、上司との関係による心理的負担である。
相談者は「上司が嫌い」と表現している。
しかし、それは単なる好き嫌いではなく、日常的なストレスになっている可能性がある。
数字を詰められる。
成果を認めてもらえない。
もっとできるだろと言われる。
顔を見るだけでしんどい。
会社に行くのが嫌になる。
このような状態であれば、上司との関係はかなり大きなストレス要因である。
キャリアコンサルタントとしては、上司の言動がどの程度のものなのかを確認する必要がある。
指導の範囲なのか。
パワーハラスメントに近いのか。
会社の相談窓口が必要なレベルなのか。
健康面に影響が出ているのか。
ここは慎重に見る必要がある。
もし、睡眠障害、食欲不振、強い不安、涙が止まらない、出社困難などがある場合は、キャリア相談だけで抱え込まず、医療機関や社内外の相談窓口を案内する必要もある。
ただし、今回の事例では、まずキャリア相談として、本人の感情と状況を整理することが出発点になる。
見立て2――自己効力感の低下
次に考えられるのが、自己効力感の低下である。
バンデューラの自己効力感とは、「自分ならできる」という感覚である。
今回の相談者は、不動産営業で年収500万円を得ている。
これは、一定の成果や能力があることを示している可能性が高い。
しかし、上司から認められず、数字を詰められることで、自分の力に自信を失っているかもしれない。
「自分は営業に向いていないのではないか」
「どれだけ頑張っても評価されない」
「この先もやっていける気がしない」
このような気持ちが強くなると、自己効力感は下がる。
自己効力感が下がると、行動力も落ちる。
転職したいと思っても、応募できない。
求人を見ても、自分には無理だと思う。
面接でうまく話せる気がしない。
今の会社に残るのもつらいが、外に出る自信もない。
この状態になると、相談者は身動きが取れなくなる。
だから、キャリアコンサルタントは、相談者の過去の成功体験や強みを一緒に整理することが大切である。
「これまで営業で成果を出せた場面はありましたか」
「お客様から感謝された経験はありますか」
「今の年収に至るまでに、どんな工夫をされてきましたか」
「上司からの評価とは別に、ご自身で手応えを感じた仕事はありますか」
こうした質問によって、相談者は自分の力を再確認できる可能性がある。
見立て3――年収とキャリア選択の葛藤
相談者は年収500万円である。
この条件は、転職判断に大きく影響する。
年収が高いほど、転職による収入低下への不安は強くなりやすい。
特に、不動産営業は成果報酬やインセンティブがある場合も多い。
別業界に行けば、年収が下がる可能性もある。
一方で、今の年収を維持するために、心身の負担を我慢し続けることが本当に望ましいのかという問題もある。
ここで重要なのは、相談者の価値観を整理することである。
年収を最優先にしたいのか。
人間関係の良さを重視したいのか。
安定した働き方を望むのか。
営業として成長したいのか。
プライベートとのバランスを重視したいのか。
長期的には管理職を目指したいのか。
専門性を身につけたいのか。
同じ転職でも、価値観によって方向性は変わる。
だから、キャリアコンサルタントは、年収だけでなく、本人が何を大事にしたいのかを確認する必要がある。
見立て4――家族との関係と意思決定
家族と同居していることも、重要な要素である。
家族は、支援資源になることもあれば、意思決定へのプレッシャーになることもある。
母親が「無理しなくていい」と言ってくれるなら、それは情緒的支援である。
一方で、父親が「辞めるのはもったいない」と言うかもしれない場合、それは相談者にとって心理的な負担になる可能性がある。
ここでシュロスバーグの4Sを使うこともできる。
Situation、状況。
Self、自己。
Support、支援。
Strategies、戦略。
この事例では、Supportとして家族がどう機能しているかが重要である。
家族は相談者の味方なのか。
現実的な助言者なのか。
プレッシャーなのか。
経済的な支えなのか。
心理的な安全基地なのか。
これを確認することで、相談者の意思決定を支援しやすくなる。
見立て5――転職は目的か、手段か
この事例で最も重要なのは、転職が目的なのか、手段なのかを見極めることである。
相談者は「転職したい」と言っている。
しかし、本当に求めているのは何か。
上司から離れたい。
認められる環境で働きたい。
営業として自信を取り戻したい。
年収を維持しながら働きたい。
精神的に安心できる職場に行きたい。
自分の強みを活かせる仕事をしたい。
将来につながるキャリアを作りたい。
もし本当に求めているものが「上司から離れること」だけなら、社内異動でも解決するかもしれない。
もし「営業スタイルが合わない」なら、別業界の営業や営業支援職も選択肢になる。
もし「不動産業界そのものが合わない」なら、業界転換が必要かもしれない。
もし「自分の強みがわからない」なら、自己理解から始める必要がある。
つまり、転職は目的ではなく、問題解決の一つの手段である。
キャリアコンサルタントは、相談者が本当に求めているものを一緒に明確にしていく。
見立ては相談者と共有しながら進める
キャリアコンサルタントが頭の中で見立てを持つことは重要である。
しかし、それを一方的に押しつけてはいけない。
たとえば、
「あなたは自己効力感が低下していますね」
「あなたは父親の影響を受けていますね」
「本当は転職したいわけではありませんね」
このように断定すると、相談者は抵抗を感じる。
望ましいのは、仮説として丁寧に返すことである。
「お話を伺っていると、上司との関係のつらさだけでなく、ご自身の営業力に対する自信も少し揺らいでいるように感じたのですが、その点はいかがですか」
「転職したい気持ちと、今の年収や安定を手放す不安の両方があるように感じました」
「上司から離れたいという思いが強い一方で、今後どんな働き方をしたいかは、まだ整理途中なのかもしれませんね」
このように、相談者に確認しながら進める。
これが、キャリアコンサルタントの丁寧な関わりである。
第5章
キャリコン実技試験で評価されるポイントと注意点
最後に、この事例をキャリアコンサルタント試験の実技・論述対策として整理する。
今回のケースは、試験対策として非常に使いやすい。
なぜなら、相談者の主訴が明確でありながら、背景に複数の論点があるからである。
上司が嫌い。
転職したい。
年収500万円。
家族と同居。
不動産営業。
28歳女性。
これらの情報をもとに、どのように関係形成し、どのように問題を把握し、どのように展開するかが問われる。
評価ポイント1――すぐ助言しない
最も大事なのは、すぐ助言しないことである。
相談者が「転職したい」と言ったからといって、すぐに求人情報、転職市場、年収相場の話に入るのは早い。
まずは、相談者の気持ちを受け止める。
「上司との関係がつらく、転職を考えるほど悩んでいらっしゃるんですね」
このように、最初に感情を受け止めることが重要である。
実技試験では、相談者が話し始めた直後に助言すると、関係構築が弱い印象になる。
キャリアコンサルタントは、アドバイザーではなく、支援者である。
相談者が自分の考えを整理できるように関わる必要がある。
評価ポイント2――感情の反映ができる
相談者の発言には、感情が含まれている。
「上司が嫌い」には、怒り、不満、拒否感がある。
「会社に行きたくない」には、つらさ、疲れ、不安がある。
「年収が下がるのが怖い」には、将来不安がある。
「自分は営業に向いていないかも」には、自信の低下がある。
これらを拾って返すことが大切である。
たとえば、
「認めてもらえない状態が続いて、かなりつらかったんですね」
「辞めたい気持ちがある一方で、年収面の不安も大きいんですね」
「上司との関係の中で、自分の力まで疑うようになっているんですね」
このような応答は、相談者の感情を理解しようとする姿勢を示す。
評価ポイント3――要約で整理できる
実技試験では、要約も重要である。
相談者の話をただ聞くだけでなく、適切なタイミングで整理する。
今回なら、こう要約できる。
「ここまでのお話では、現在は不動産営業として働き、年収は約500万円あるものの、上司から数字を厳しく求められ、認めてもらえない感覚が続いている。そのことで仕事への自信も揺らぎ、転職したい気持ちが強くなっている。一方で、年収が下がることや家族への説明にも不安がある、という状況ですね」
このように要約することで、相談者は自分の状況を客観的に見やすくなる。
また、キャリアコンサルタント側も理解がずれていないか確認できる。
評価ポイント4――問題を多面的に把握する
相談者の問題を「上司が嫌い」だけで終わらせないことが大事である。
今回の問題は、多面的である。
人間関係の問題。
仕事の成果や評価の問題。
自己効力感の問題。
年収や生活の問題。
家族との関係。
将来のキャリア選択。
転職への不安。
キャリアコンサルタントは、相談者の話を聴きながら、これらを整理していく。
ただし、いきなり全部を聞こうとすると、質問攻めになる。
最初は感情を受け止める。
次に状況を確認する。
その後で価値観や選択肢を整理する。
この順番が大切である。
評価ポイント5――相談者の主体性を尊重する
キャリアコンサルタントは、相談者の代わりに決めてはいけない。
「転職した方がいいです」
「今の会社に残った方がいいです」
「年収500万円なら我慢すべきです」
「上司が嫌なら辞めるべきです」
こうした断定は避ける。
大切なのは、相談者が自分で選べるように支援することである。
たとえば、
「今後の選択肢を一緒に整理してみましょうか」
「現時点で、どの選択肢が一番しっくりきますか」
「転職するかどうかをすぐ決める前に、まず確認しておきたいことは何でしょうか」
「次回までに、どんな情報があると判断しやすくなりそうですか」
このように、相談者自身の意思決定を支える。
試験で避けたいNG対応
この事例で避けたい対応も整理しておく。
第一に、早すぎる助言である。
「転職サイトに登録しましょう」
これは早い。
第二に、一般論で返すこと。
「どこの会社にも嫌な上司はいます」
これは相談者の感情を軽視している。
第三に、上司批判に同調すること。
「その上司はひどいですね」
一見寄り添っているようだが、相談者の見方を固定する可能性がある。
第四に、年収だけで判断すること。
「500万円あるなら辞めない方がいい」
これは相談者のつらさを無視している。
第五に、家族同居を決めつけること。
「家族と暮らしているなら安心ですね」
これは本人の実感と違う可能性がある。
第六に、質問攻めにすること。
「いつからですか」
「何を言われたんですか」
「転職先は?」
「家族は?」
「貯金は?」
情報収集は大切だが、関係形成の前に質問ばかりすると、相談者は話しづらくなる。
この事例で使える応答フレーズ集
実技練習用に、この事例で使える応答フレーズを整理する。
「上司との関係がつらく、転職を考えるほど悩んでいらっしゃるんですね」
「成果を出しても認めてもらえない感覚があり、気持ちが折れそうになっているんですね」
「転職したい気持ちと、年収が下がることへの不安の両方があるんですね」
「家族と同居されていることも、今後の選択を考えるうえで関係していそうですね」
「今のお話を伺うと、上司との関係だけでなく、ご自身の営業職への自信も揺らいでいるように感じました」
「転職するかどうかを今日すぐに決めるのではなく、まず何が一番つらいのか、何を大事にしたいのかを整理してみませんか」
「今後の選択肢として、今の会社に残る、異動を相談する、同業他社を見る、別業界の営業職を検討するなど、いくつか考えられそうですね」
「その中で、今のご自身にとって一番現実的に感じるものはありますか」
「まず一歩目として、どんなことならできそうでしょうか」
こうしたフレーズは、実技試験のロールプレイにも使いやすい。
最後に
かかわり技法は、相談者の人生を開く入口である
マイクロカウンセリングのかかわり技法は、派手な技法ではない。
劇的なアドバイスをするわけではない。
相手を一瞬で変える魔法でもない。
転職先を決めるテクニックでもない。
しかし、キャリア相談の土台として、非常に重要である。
なぜなら、相談者は安心できなければ、本音を話せないからである。
「上司が嫌いで転職したい」
この言葉だけを聞けば、単純な転職相談に見える。
しかし、丁寧に聴いていくと、そこには多くのものがある。
認められないつらさ。
成果を求められるプレッシャー。
自信の低下。
年収を失う不安。
家族への説明の迷い。
将来の働き方への問い。
自分はこのままでいいのかという不安。
キャリアコンサルタントの役割は、それらを一緒に整理することである。
そのためには、まず関係を作る必要がある。
身体を向ける。
開かれた姿勢で聴く。
適度に視線を合わせる。
うなずく。
あいづちを打つ。
沈黙を待つ。
感情を反映する。
要約する。
急いで助言しない。
相談者の主体性を尊重する。
これが、かかわり技法である。
キャリアコンサルタント試験では、理論名を覚えることも大切である。
アイビイ=マイクロカウンセリング。
マイクロカウンセリング=基本的かかわり技法。
かかわり技法=相談者が安心して話せる関係づくり。
この組み合わせは、必ず押さえておきたい。
しかし、それ以上に大切なのは、実際の相談場面で使えることだ。
28歳女性。
不動産営業。
年収500万円。
家族と同居。
上司が嫌いで転職したい。
この事例で、すぐに転職を勧めるのではなく、まず丁寧に聴く。
「何がつらいのか」
「何を守りたいのか」
「何に不安を感じているのか」
「どんな働き方を望んでいるのか」
「どんな選択肢があるのか」
これを一緒に整理していく。
キャリアコンサルタントは、答えを押しつける人ではない。
相談者が自分の答えに近づくための伴走者である。
その伴走の第一歩が、かかわり技法である。
そして、この第一歩を丁寧に踏めるかどうかが、キャリアコンサルタントとしての実力を大きく左右する。


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